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 あれから。  複雑な経緯で知り合った環は、大体週二回のペースで家を訪れるようになった。  とは言ってもそのうち一回はなんとなく顔を出すだけで、『そういうこと』をするのは週一ってところだ。  どうも環は家族にカミングアウトをしていないどころか『いい子』を演じているそうで、素の姿を知っている俺の家に来ることで息抜きをしているらしい。  確かに制服にメガネ姿の環はイケメンさより真面目さの方が目立って、『タマキ』の時のような奔放さは鳴りを潜めている。むしろ普段抑えつけているからこそあのバーでしか自分を出せなかったんだろう。それが俺に知られたことで楽になったようで、俺に対してだけは制服姿の時も気やすいし訪ねてくることに遠慮もない。  ただ俺も先にある程度の予定を知らせているから、遅くなりそうな時や忙しい時には来ないし、いたとしてもごろごろしているくらいだから邪魔にはならず、結果ずるずると微妙な関係を続けていた。 「優ちゃん、肩掴んでいい?」 「いいからいちいち聞くなよ」  そして、本来の目的である『ソレ』をする時の環は、最初と比べてだいぶ大人しくなった。  年下に呼び捨てにされんのは嫌だと言ったら一応さん付けするようになったものの、露骨な変化に俺の方が見下されているような気がして、結局「優ちゃん」呼びで落ち着いた。  そんな環は、あの夜以来無理に迫ってくることはなくなり、俺に遠慮するようになった。他は遠慮しないくせに一番強引だったはずのここだけは逆に躊躇うんだからおかしなものだ。  あんまり見せたくないと体を晒すことはないし、俺が手でしてやる時も向かい合わせでくっついている分触れている場所は見えず、声も控えめ。  それでも最初は弱く俺の肩を掴んでいる手が、最終的には強く爪を立てられるから、かなり気持ち良くはなってくれているようだ。  環曰く、「優ちゃんの綺麗な指にされてると思うだけでイける」だそうで。テクニックよりも指のフォルムを褒められるというのをどう受け取るべきかは少し悩むところだけど、どういうことであれ、褒められて悪い気はしないってのが人間ってもんだ。 「あっ……ぅあっ、あ」  普段は生意気なくせに、俺が手を動かすたび小さく呻くように喘いでいる環を見ると不思議といじめたくなって、焦らしたり責め立ててみたりしてしまう俺は、自分が思っているよりもだいぶSっ気が強いのかもしれない。  ……でも、環はこんなことよりもよっぽどすごいことをしてたんだよな。あんなイベントに参加するぐらいなんだし、それなりに遊んでいたんだとしたら、これぐらいで満足出来るもんじゃないんじゃないだろうか。 「なあ、環。気持ちいいか?」 「っ! あ、ゆ、優ちゃんの手が、気持ち良くないわけ、ない……っ」  心配半分、意地悪半分の気持ちで耳元に囁くように問えば、環は荒い息を洩らしながらそう答えた。どうやらそれなりには気持ちいいらしい。というか、かなり感じてくれているらしい。  追い込むように少し手荒く手を動かせば、環がびくりと体を震わせて仰け反る。そのせいで気持ち良さに震える喉が目の前に晒されて、衝動的に食いついてしまった。  片手で押さえた頭は形よく小さくて、すっきりと長い首のせいで小顔が引き立つ。その喉がやけに魅力的で、ほとんど反射的だった。甘噛みして、唇で触れて。 「……っ!」  その瞬間、環の体が震えて手の中に環の欲が吐き出される。焦らし過ぎたせいか、いつもより少し吐き出す時間が長い。  息を詰めてすべてを出し切ってから、くったりと力の抜けた体を俺にもたれかからせた環は、いつもと少し様子が違った。俺に抱き着いたまま浅い呼吸を繰り返している。よっぽど溜まってたんだろうか。 「大丈夫か?」  とりあえず手を伸ばして用意してあるティッシュを掴み取り後始末を済ませると、もう片方の手で背中をさすって様子を窺った。  濡れた首筋が少し気まずい。  でもたとえ男相手とはいえ、俺だってまるっきり性欲が枯れ果てている訳でもないんだ。それなりに空気に煽られることもあるんだってのは、環も承知してるかと思ってたんだけどこの様子じゃ今後は気を付けた方が良さそうだ。 「環? どうした?」  いつまで経っても顔を上げない環を窺うように背中をポンポン叩いたら、急にその体が離れて。 「……俺帰る」  素早く身なりを整えた環がぽつりと呟いて帰ろうとしたから、反射的にその手を掴んだ。 「ちょっと待て」  俺の顔を見ないまま足早に立ち去ろうとする環は明らかに様子がおかしい。というか、俺から逃げようとしてるみたいだ。  振りほどこうとされた腕をもう一度強く握って、強引にこちらを向かせる。今の状態ではいそうですかと帰せるわけがない。

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