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「お前絶対あのバー行くだろ」
いつもならもっとだらだらして最終的に泊まっていくか、あまり遅くならないうちにと俺が帰すかするのに自分でそそくさと出て行こうとするってことはそういうことだろうと睨みつけて言えば、顔を上げた環も俺を睨み返してきた。濡れた目元が赤い。
「だって火ついちゃったんだもん」
「はあ?」
「優ちゃんのせいで、もっと気持ち良くなりたくなっちゃったから相手探しに行く」
「おい、そうしないって約束で家来てんだろ」
危なっかしい高校生を男好きの酔っ払いがいるところに行かせるなんて、大人として出来ない。ていうかむしろ自分から男を誘おうとしてる奴を放りだせるかってんだ。そうさせないために俺がこんな手に出てるってのに、ここで行かせたら熨し付けて送り出すことになってしまうじゃないか。バカを言うんじゃない。
「もっとむちゃくちゃにされてーんだよ! ガンガンにヤってほしいの! 優ちゃんじゃ足りない。生温くて全然足りない」
だけど環は駄々をこねるようにとんでもないことを言う。
そりゃ、好きに男と寝てた奴をこんなちょっとした遊び程度で満足させてやれるとは思っていなかったけど。それなりには気持ち良くなってたくせに、生温いとか、全然足りないとか、よくも言ってくれた。
「なんだよ。行かせたくないなら俺が抱けってことか?」
「そうだよ。優ちゃんが満足させてくれんなら行かない」
挑発的な視線と言葉は、どうせできないくせにと俺をせせら笑っている。それぐらいもできないのに、偉そうなことを言うなと。
嫌な顔だ。再会した喫茶店で、「大人ぶっている」と俺を鼻で笑った顔と同じ。
わざとらしくケンカを吹っ掛けるその態度に、かなりカチンときた。
「無理なんだからさっさと手離してよ」
これで終わりとばかりに言い放った環の手を思いきり引っ張り、そのままベッドに転がす。油断していたのか、環はなんの抵抗もなくあっさりとベッドに沈んだ。
俺より少しばかり身長が高くたって、細くて大した力もないのは見てわかる。それにこうやって寝転ばせてしまえばその身長差さえ意味はない。
「う、わっ、え……!?」
突然のことに受け身もなにも取れずに目をぱちくりさせている環を見下ろし、ボタンを外してシャツの襟元を緩める。
「やってやりゃーいいんだろ」
「え?」
ここまでバカにされて黙っていられるほど人が出来ているわけじゃない。
なにより、あそこまでしたのにやっぱり最終的には満足出来ないから他の男を探しに行きますなんて言われたら、プライドにかけて引き止めるしかねぇじゃねーか。
「別に男相手にやったことなくたって、やるこた同じだろーよ」
そりゃ当然男相手の経験なんてない。だけど今まで彼女がいなかったわけじゃないし、性別の差異はあっても、基本的にすることは同じだろう。だったらやってできないことはない。
「要は慣らして入れりゃあいいだけだろ? あんまり年上ナメんな」
自分が遊び慣れているからって、年上の男を見くびったりバカにしていい理由にはならない。
あくまで環はただの高校生なんだ。しかも、優しく与えられることだけに慣れ切っているただの子供。そんなもんにナメられっぱなしでたまるか。
強い刺激を望んでいる環に必要があるのかはわからないけど、俺の気分的な問題で覆い被さって首筋に顔を埋めると、環がびくりと体を震わせた。さっきとは違う、怯えるような身の震わせ方。
「だ、ダメ……!」
その上で弱々しく胸を押されて、眉を潜めて体を少しだけ起こす。
「はあ?」
「優ちゃんは、そんなのしたらダメなんだよ!」
「……お前は俺をなんだと思ってんだ」
「普通の人」
自分から挑発しておいていざとなったら俺はしたらダメって、意味がわからん。しかも『普通の人』とか、違う意味の挑発かなにかか。
「はああ? それはどういう意味で言ってんだよ」
「俺にとっては褒め言葉だよ!」
普通の人、なぁ。
環にとって俺という存在は、どうからかったところで手は出されない安全牌ってことなのか? それとも俺は性欲もなにも抱かない聖人君子だとでも思っていたのか。
「んな褒め方されても嬉しくねぇよ。……大体お前から言ってきたんだろ、むちゃくちゃにされたいって」
あそこまで言っておいて、実際こういう展開になったら俺に夢を見るってどうなってんだ。
俺に男を感じてないから挑発したけど、実際押し倒されたら恐くなった、というのとは少し違いそうだ。
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