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「ゆ、優ちゃ……」
「黙ってろ」
ここまできてまだ俺を『普通の人』扱いしようとする環を黙らせ、改めて足を抱え直すとそのまま躊躇うことなく挿入した。過剰なほど垂らしたローションが空気を含んで音を立てるのを耳に、だいぶ強引に押し込んでいく。
体の構造上の抵抗はあったものの、奥まで届かせるのは意外なほど他愛無かった。たぶん積極的に受け入れようとしてくれている環の協力もあったんだろう。
「ん、んんんっ……あ、あっ」
「きついか?」
呼吸とともに脈動する環の中が、俺自身を熱く締め付けて蠢く。その追い立てる感覚に流されないように深く息を吸い込めば、合わせて声が漏れてきたからその表情を窺う。
荒い呼吸のせいで苦しそうに見えるけれど、当人は薄目を開けて俺を見て唇を小さく笑みの形に歪めた。それだけで『タマキ』の顔がちらりと覗く。
「キツイ、けど、だいじょぶ。てか、キツイのは優ちゃんのが……あっ、やっ、急に動くのずるい……っ!」
別の時なら誉め言葉として受け取っても良かったのかもしれない。
でも今は無理。
余裕があるのかないのか、余計な言葉が続きそうだったからそれを無視してさっさと動くことにした。何度も言うけど、別に俺だって枯れているわけじゃない。こんな状態で落ち着いて会話できるほど理性でできていないんだ。
だからほとんど衝動に任せてに腰を動かせば、それに合わせてぐちゅぐちゅと繋がった部分がいやらしい音を立てた。ベッドが軋む音も相まって、誤魔化しようのないセックスの音が部屋を埋める。
ほら見ろ、できたじゃないか。
反射的に逃げ打つ腰を捕まえて持ち上げ、より深く穿つと環の体が跳ねるみたいにして震えた。男同士のセックスが初めてとはいえ、快感の道を辿っているのがよくわかって安心してピストンを速める。
こうなると男も女も変わらない。
「んっ、あっ、やっ、やだぁ……」
「なにが」
そのくせ上擦った声を上げる環が必死な様子でやだやだと洩らすから、無視しようかどうしようか迷った挙句に短く聞いてみた。
ぶっきらぼうに聞こえたのなら許してほしい。
でも本気で嫌がっているようには見えず、むしろどう見ても感じてるようにしか見えないんだから聞きたくもなる。どこか一点だったら気持ちよすぎていやいや言うのもわかるけど、それとはどうも様子が違いそうだしスルーはできない。
すると環は真っ赤になった顔を両手で隠しながら、泣き出すように口を開いた。
「優ちゃんは、ノンケの童貞で、自分の小ささにコンプレックス持って、セックスとか汚らわしいって思ってなきゃやだっ、こんなの、イメージ、違う……っ!」
「お前マジでそれただの悪口だからな」
なんだそのネガティブなイメージは。
痛いとか下手だとか、そういうので文句を言われるのなら仕方がないけど、自分が勝手に抱いているイメージと違うから嫌だとか。それよりもまずその持たれてるイメージがおかしすぎるだろ。
「やっ、こんな上手いの、やだっ。はあ、やだよ、気持ちいい……っ」
手で覆っている目の端からぽろぽろと涙を零しながら感じてる環は、幼く見えるのに変な色気があって、予想外のギャップに頭の芯というか体の芯というかが熱くなるのを感じた。
こりゃモテるのは当然だ。
普段は奔放で大人ぶって自分のことを小悪魔だとか言うくせに、いざとなるとこんな風に弱々しく泣きながら感じられたんじゃ、男心と欲望をくすぐられないわけがない。
「い、や、こわい……っ、優ちゃん、良すぎてこわい、から、手」
「え?」
「手、にぎって」
揺さぶられて感じすぎて恐くなって、俺に縋るように手を伸ばしてきた環の手を、一瞬躊躇ってから握る。汗ばんだ手に指を絡め、強く握り返してきた手に爪を立てられてどれだけ環が快楽に溺れているかを知らされた。
「やっ、イっちゃう、やばい、優ちゃ……あっんん」
歯止めが利かないのかうつろな様子で声を洩らす環に、変な嗜虐心が芽生えそうになって唇を噛んだ。そして脂肪のあまりついていない薄い腹が忙しなく上下するのに意識を集中させてなんとか気を散らす。
いくら細いといっても、やっぱり女に比べれば曲線の少ない紛れもない男の体だというのにどうしてこうもいやらしく見えるのか。
「あっ、あ、はぁ、ん、あ!」
俺が動くたびもう片方の手でシーツを握り締め小さく声を上げる環は、どうやらかなり感じてくれてるようで。上げる、というよりかは洩れ出すような上擦った嬌声が、普段の生意気な様子とのギャップで頭の中をぐちゃぐちゃにしてくれる。
こいつはいつもこうなんだろうか。会ったばかりの男でも、こうやって手を握って、訳もわからなくなるくらい乱れるのだろうか。
今まで、よく知りもしない男たちにこんな無防備な姿を見せつけてたのかと思うと、ジリッとした焦燥が胸を焼いた気がした。だけど、それは気づいちゃいけないことのような気がして、必死に事に集中して思考を埋める。
普段する時にこんなに考えごとをしていただろうか。それが、もう今となっては思い出せない。
「優ちゃん、もう、俺……ッッ!」
爪が食い込んで痛いほど俺の手を握り締め、環が鋭く息を吸い込んだのと同時に、俺も我慢することなく張りつめていた熱を解放した。
その瞬間に本気で真っ白になったのは初めての体験だった。
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