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 結局環はそのまま三度目の絶頂を迎え、終えた後はぐったりとベッドに沈み込み、俺もそこそこの気だるさを覚えながら環と自分の後始末をした。  なんとも気まずい空気に、色んな意味で換気をしたくなった。 「……大丈夫か?」  その間も、それからしばらくしてからも、枕に顔を埋めたまま動かない環は、さっきからなにも言わない。疲れ切って寝ているのかと思ったけれど、それなら寝息ぐらい聞こえたっていいはずだ。  だからその頭を軽く撫でつつ様子を窺ってみると、ぴくりと肩が動き、やっと顔が枕から離れた。 「え」  思わず声を上げてしまったのは、環が赤く泣き腫らした目で俺を睨みつけていたからだ。それに気を取られて、投げつけられた枕に反応ができなかった。 「うおっ! なんだよ」 「バカバカバカバカ! なにできちゃってんだよ!」  顔で枕を受け止めた俺に、追撃のようにパンチが襲ってきたけど、力の入っていない猫パンチじゃ痛くもない。  ただ痛くはなくても殴られるのは嫌だし、なんだか子供のわがままみたいだったから叩いてくる両手をそれぞれ掴んで止めたら、素早く足での攻撃が来たから、すべてを封印するためにとりあえずそのまま抱き締めた。  俺より上背はあっても細い環は、大した抵抗もなく俺に閉じ込められる。 「なにに文句をつけてるんだお前は」 「ノンケのくせして、なに器用にヤってんだよ。諦めさせろよバカ」  すると環は力なく俺に寄りかかってきて、バカバカと小さな声で何度も呟いた。  俺がヤらなきゃ他の男を探しにいくとまで言って脅迫したくせに、してほしいことをしてやったら文句を言われるなんて理不尽だ。しかも引っかからざるを得ない一言まで付け足しやがって。  これを意図してやっているのなら、確かにとんだ小悪魔だ。 「お前は、なんかあれだな。とてつもなく不器用だな」  なんと返していいかわからず、とりあえずでかいため息が洩れた。  そういうんだったら、こういうことをする前に言うことがあるんじゃないか?  俺に怒る前に、勝手に諦める前に。  大人しく俺の腕の中に収まっている環は、してることはしてても、中味は思っている以上に幼いのかもしれない。 「……で、満足したのか?」  ここまでしたのに結局まだ足りないから誰か探すと言われたらさすがにお手上げだ。  子供をあやすみたいに背中を撫でて窺うと、環の手が俺の背中に回ってきた。 「……もう優ちゃんじゃなきゃ満足出来ない。どーしてくれんだよこんなの」 「俺で満足出来るならそれでいいじゃねぇか」 「……よくない。全然よくない」  夜に遊び歩いて一夜限りの相手を探すなんて危ないことをしなくて済むならそれでいいと思うけど。  満足出来なかったのならまだしも、良かったと思えたのならそれでいいはずだ。それなのに環は俺にくっついたまま納得いかない様子で顔を伏せている。 「優ちゃんの優しさは最低だな」 「なんだよそれ」 「期待させてんじゃねーよってこと。どうしても越えられない障害がある方がね、諦めるのは楽なんだよ」 「なにを諦めるんだよ」 「……幸せ」  少しの沈黙の後ぽつりと呟いた環は、それきり黙ってしまい、気づいたらそのままの体勢で眠り込んでいた。さすがに疲れたらしく、こんな格好だってのにすっかりと熟睡している。  俺は動かしても起きそうにない環をベッドに寝かせてやると、頬におやすみのキスを落としてから電気を消した。  色々考えるのは、また明日。

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