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fellow key 2

 結局言った場所で大人しく待っていた環を捕まえ、そのまま家に連れて来た。  家に送るのは後。まずは事情を聞かないと。 「なんでこんなことしたんだよ。したいなら家に来ればいいだろ」  手を引っ張って家に上がらせた環は顔を下げて俺を見ないようにしていたけれどそうはいかない。  顔を上げさせ、とりあえず明るいところで傷をチェックする。  殴られたのは頬らしく、まだ痕にはなっていないけれど少し腫れている上に唇が切れて血が出ていた。とりあえず血を拭って頬を冷やしつつ、本人に事情説明を求める。  そもそも、こういうことを心配して家に来いと言っていたのに、嫌な予感が的中してしまった。綺麗な顔をしている分、ボサボサの髪と殴られた頬が痛々しい。 「だって、優ちゃんに迷惑かかんじゃん」 「なにを今さら」  拗ねたように口を尖らせ、痛みに眉をしかめる環の言葉は、本当に今さらだ。本当に俺が迷惑だと思っているのなら元から家には上げないしわざわざ迎えに行ったりなんかしないってのに。  というか、迷惑をかけたくないと言いながら俺が危ないと言ったことをやるなんて、矛盾してるにも程がある。 「言っただろ。あんなこと続けてたら、ひどい大人にひどい目遭わされるって。……ったく。痛いだろ、これ」 「別に。へなちょこパンチだったし」 「そういうことじゃねぇよ。普段ケンカばっかりの奴ならまだしも、お前みたいのは殴られることなんかないだろ? だからこんなのでも痛いだろうし……恐かったろ?」  そこまで派手に殴られたわけじゃないってのは見ればわかる。だけど今は威力の話じゃなく、二人しかいないところで暴力をふるわれたってことが問題だ。いくら大人ぶってたって普段はケンカとは無縁だろう高校生なんだ、恐かったに違いない。  傷ついてしまった頬にそっと触れると、環はほんの少し顔をしかめてから頷いて、それから倒れかかるように俺に抱きついてきた。なんだかまた細くなった気がする。  安堵するように深く息を吐いた環は、まるで猫のように俺に擦りついてきた。 「……優ちゃんに電話しようかどうしようか、悩んでたら優ちゃんから電話が来てさ。すげー嬉しかった。一番欲しいタイミングに優ちゃんの声聞けたから」 「本当に心配したんだぞ」  ため息をついてから環の背中に手を回し、慰めるようにさする。  ひどいことはされたけれど、相手次第でもっとひどい目に遭っていた可能性だって十分ある。そう思えば、まだこれぐらいで済んでマシだったんだろう。だからと言って、良かったなんてとても言えないけど。  ともかく、こいつを放っておくと危ないってことだけは十分思い知った。  もっと早くなんとか見つけ出してちゃんと話し合っておくべきだったと反省しつつ、小さな頭をそっと撫でる。不器用で真面目な高校生の、うまい息抜きの仕方を知らない事実を甘く見ていた。 「……優ちゃん」 「ん?」  しばらく俺に抱きついて黙っていた環が、小さく俺の名を呼んだ。応えた声は自分で驚くほど優しく、思った以上に自分が環の心配をしていたことを知った。  その環は、俺に抱きついたままもう一度優ちゃんと呼んで。 「ごめん、俺優ちゃんが好き」 「なんだよ、そのごめんって」  顔を隠した状態で言われたそれは、甘い愛の囁きではなく懺悔や罪の告白のような響きだった。  ……こんな言い方をすると嫌な男に思われるかもしれないけれど、環のそういう気持ちには気づいていた。むしろ本人がほとんど言っていたようなものだったから。だからどちらかというと、先に言われたその謝りの言葉の方が気になってしまう。  告白前に謝るって、どういうことだ。 「だって困るじゃん、こんなの言われても。だから言いたくなかったし、近づかないようにしてたのに、優ちゃんが王子様みたいに助けに来てくれるからさぁ」 「王子様だったらもっと早くに迎えに行ってるだろ」  いいから顔を見せろと背中を叩いても環は逆に力を込めて俺に抱きついて離れようとしない。そんなに顔を見られたくないのか。  それにしたって、よっぽど自分の方が王子様みたいなビジュアルしてる奴が、よりにもよって俺を王子様とは言ってくれる。  情けないことに、すべてが終わってからしか迎えに行けなかった俺を。

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