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fellow key 3
「俺のこと気にして、来てくれただけで十分なんだよ。優ちゃん優しすぎ。だから俺がこんな風に調子に乗って勘違いしちゃうんだ。そうだ。優ちゃんのせいだ」
「なんだよその結論は。大体お前最初から俺のこと落とすとか言ってたじゃねーか」
「優ちゃんを落としたかったの。なのに俺の方が落ちてどうすんだよ」
なんて言うか、わがままなようで筋が通っている気もして、ため息をついて頭をぐしゃぐしゃ撫でてやった。どうにも気まぐれな猫に懐かれている気分だ。
でもまあ、確かに性的指向の面で乗り越えるべき壁が高いのは、環から俺に対する気持ちよりも俺から環に向けての気持ちが発生した場合だ。
それは環からどうにか出来るもんじゃないってのは、今までの経験から知ってるんだろう。相手側、この場合は俺の方から、「男を好きになる」という一般的な倫理観から外れるような道を選ぼうとしなきゃ、環の気持ちはどう頑張ったって実らないんだから。
だからこそ言っても仕方ないと最初から諦めていて、その気持ちを俺にぶつけることに対して謝るのか。
「……早く振ってよ。俺が可哀想じゃん」
「お前って普段自信満々なくせして変なとこネガティブだな」
散々頭を埋めて表情を見せないようにしていたくせに、ちょっとの沈黙が耐えられなくて窺うように顔を上げた環がそんな言い方をするから、苦笑いしてもう一度頭を撫でた。
曖昧なままタイミングを逃すと厄介なこじれ方をするものだと学んだ。
だからここは正面から向き合わないといけない。
……そういえば最近、仕事ばかりに必死になっていて、こういうまっすぐな気持ちのやりとりをしていなかった。こんな風に誰かのことを思う気持ちから離れたのはいつからだろう。
「実を言うと、俺も、色々考えた」
「考えたって、なにを?」
「あーちょっと待て。それ冷やしてくる」
俺に抱きつくことでほったらかしにされていたタオルを拾って冷やしにいくという名目で環から距離を取ったのは、どうやって話を始めようか迷ったからだ。
環は一人で悩んでいたつもりかもしれないけど、俺だってなにも考えずに環を呼んでいたわけでも待っていたわけでもない。というか、こんなことを、なにも考えずにしてたらそれこそ変だろ。
「ほら、ちゃんと冷やせ」
「なにを色々考えた?」
腫れている頬に濡らしたタオルを当てると、その上から手を掴まれまっすぐな問いに捕らえられた。どうやら逃がしてくれる気はないらしい。
「……ぶっちゃけ、環にしてることを他の男に出来るか、と。例えばもっと可哀想な感じの相手だったら、とか、環と同じ危なっかしい高校生だったら、とか。誰とでも、というと違うけど、それでも他の相手に出来るか考えた」
勢いで環を家に呼ぶようになったとはいえ、やってることはとてもじゃないが普通ではない。それが、どうして環に出来たか。俺がおかしくなったのか、それとも意外と誰相手でもできるものなのか。
ぶっちゃけると、大して考えるまでもなく答えは出た。
「考えて、どうだった?」
「無理だと思う。どんなに頼まれた所で、俺はたぶん普通に断るはずだ」
テレビで見る芸能人だったり、同僚だったり、その辺を歩いている適当な人間だったり。試しに当てはめてみようとしたけど無理だった。むしろ想像したくもないとさえ思う。
相手が誰であろうと、手だけであろうと、どんな理由があったとしてもしたくないもんはしたくないし、下手したら気持ちが悪いとまで言ってしまうかもしれない。
でも、環には最初からそう思わなかった。あれは嘘じゃない。
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