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fellow key 4
「確かに最初はお前に押し切られたし、この前のも恋愛感情ではなく、正直売られたケンカを買ったってだけだ。だけど本当にお前が嫌なんだったらそんなケンカは端から買わないし、たぶん普通に持ちかけられてもお前を追い出して二度と家に入れなかった。知りもしないお前にほだされる理由なんてないからだ。お前がどうなろうと知ったこっちゃない……はずなんだ、本来なら」
いくら高校生だと言ってもなにもわからない年じゃないし、自分でやってることだ。自分で相手を探し、合意の上でセックスをする。そこには一応ルールがあって、その上で危ない目に遭ったとしても俺には関係ないし、ぶっちゃけ親戚でも友達でもない奴を未成年だからと言って保護してやらなきゃいけない理由はない。
それでも、環にはできた。環が本気じゃなくても嫌がった時にやめることができたのに、やめなかった。怒りとか嫌がらせとか、そんなことだけでする程憎くもないし、簡単にも考えていない。
……それがどういう意味なのか、本当はたぶん、一番初めに気づかなきゃいけなかったことなんだろう。
「でも、正直色々受け入れがたかったから、お前だけが特別って結論にすることにした」
その気持ちを認めてしまったら、今まで生きてきた俺の倫理観とか常識とかプライドとかそういうものが崩れてしまいそうで、それだけは素直に受け入れることはできなかった。
今まで付き合ってきたのも好きになったのも女の子だけで、その興味がいきなり男相手にも広がったなんてそんな気持ちの転換、易々と飲み込めるものじゃない。
だから、変わったのは俺のすべてじゃなく、環に関することだけってことにしたんだ。それなら認めやすかったから。
「え、それって……」
「お前だから、優しくしてやりたいし、心配もするし、傍に置いておきたいと思う。あと、環の望むことも大抵のことならできると思う。……そういうことで、いいか?」
環はもっと直接的な言葉を望んでいるのかもしれないけど、俺としてはこういう言い方しか出来ない。
だからそれでもいいかと本人に聞いてみれば、呆気に取られた顔をしていた環が、はっとしたように我に返って俺に飛びついてきた。また可哀想なタオルが床に落ちる。
「じゃあ優ちゃん。優ちゃんに、次に好きな人が出来るまで付き合って!」
「なんだよ、その期限は」
「だってそう思っておいた方が振られる時に楽じゃん」
「あんまり人生楽ばっかしてると後が面倒だぞ」
「後で面倒だとしても、今楽しい方が先」
ネガティブな前向きとは新しい。まあ今のところその予定はないから、本人がそれでいいと言うならいいけれど。
「だからさ、優ちゃんと楽しいことしたいなー」
そしてすぐに調子に乗った環は、俺を窺うようにして上目遣いでそんなことを言ってくる。俺より長身なくせに上目遣いが似合うのは、今までの人との付き合い方のせいかもしれないと思うと背筋が寒くなったからただ単に顔がいいからと思うことにした。
そんな可愛らしい顔で、潜ませた片手を俺の股間に伸ばすのだから頭が痛い。
「してくれる?」
「……今日はダメだ」
ごろにゃんとでも言いそうな素振りで擦り寄ってくる環を、拒否の気持ちを持って引き離す。断られるとは思っていなかったのか、環の体は呆気なく俺から離れ、ぺたりとその場にしりもちをついた。
「今日は、送ってくからちゃんと家に帰ること。それで、週末に改めて来なさい」
「えーなんでー? 今しようよ」
そういう流れになるのが当たり前だと思っていたのか、甘えた声を出す環を手で制してより距離を離す。
「他の男と寝てきた後に俺に迫るな」
「う……優ちゃんひどぉいー。俺恐い目に遭ったんだから慰めてくれてもいいじゃん」
「約束を守らなかったお前が悪い」
そりゃ殴られたのは可哀想だと思うけど、ある意味自業自得だ。俺はそういうことにならないように面倒を見ていたというのに、それを裏切ってよくわからない男について行ったのが悪い。
「そういうのは嫌いだ。俺と付き合うなら、今後一切そういう真似はしないこと。いいな?」
「うん。優ちゃん以外とは寝ない」
即座に頷く環の言葉にどれだけ拘束力があるかはわからないけど、この場合は信じるしかないだろう。
でも、そうか。俺以外の男についていかないなんて条件を出した時から、もう始まっていたのか。……俺も大概鈍い。
とりあえずそういうことならちゃんと仕切り直しをしようじゃないか。うやむやのまま進めるのは、この場合良くないことだ。
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