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fellow key 5
「そう決めたんだったらちゃんと段階を踏むこと。まずは家に帰ってちゃんと傷を冷やしてから眠る。それで、週末になったらちゃんと家の人に外泊することを伝えてから家に来る。そうしたら俺はその夜にお前を抱く。わかったか?」
「……なんかまどろっこしい」
「やめるか?」
「やめないけど、さ。……まあ、いいや。わかった、帰るよ」
ものすごくわかりやすく不満げな顔をする環に即座に問うと、そう答えながらも納得する気もない様子で渋々と帰る準備をし始めた。ちゃんと覚えていたタオルを拾って畳んでテーブルの上に置いて、わかりやすく肩を落とす。マンガだったら「しょんぼり」という言葉を背中に背負っていそうだ。
「はあ……」
別にこのまま帰してもいいけれど、微妙に禍根を残しそうだったから、一つため息をついて気持ちを切り替えた。そして立ち上がった環の手を掴み、引っ張って向かい合わせにして改めて握り直して。
「え、ゆ、優ちゃん?」
「目閉じろよ」
俺の一言で、慌てて目を閉じた環に、本当に軽く、キスをした。
少しかさついた、でも熱を持った唇が一瞬だけ触れて、離れる。
「……付き合うってのは、こういうことだからな」
そういえば、環とは初めてキスをする。
流れというか勢いで体を繋いでしまう関係になってしまったことで今まではそういう雰囲気ではなかったけれど、これからはこういうこともするようになるわけで。
関係性のリセットでここから始めましょうという意味でしたことなんだけど、環の反応が鈍いせいで予想以上に気恥ずかしい感じになってしまった。とっくに一線超えている相手に、なんでこんな軽いキス程度で照れてるんだ。
「だ、ダメだ。俺帰る。こ、こういうの、なんか慣れない」
我に返った途端、耳まで真っ赤に染めた環が、急にぎこちなく俺から離れて玄関へと向かう。だけどそこでふと考え込むように足を止め、なにか言いたげな顔で俺を振り返って。
「さよならのキスは?」
「は?」
「帰るから、さよならのキス。して」
今照れていたのはなんだったのか、突然そんな要求をしてくる環に呆れもしたけれど、こいつなりの強がりなのかもしれないと思って大人しくしてやった。いや、また上から目線でからかってるだけかもしれないけど。なんにせよ、そんなもんあっさりしてやればどうってことない。
「またな。週末、楽しみに待ってるからちゃんと傷治せよ」
今度は自分から目を閉じた環の頬に手を添えそれなりのやつをしてやれば、ゆっくりと目を開けた環がはっとしたように「帰る!」と大声で宣言した。
どういうテンションなのかさっぱりわからないけれど、これがジェネレーションギャップってやつだろうか。
そんなことを悩んでいる間に環はそそくさと靴を履いて出て行こうとしたから、慌ててその手を掴んで引き留めた。
「おい、待てって。送ってくっつってんだろ」
「いい! これ以上優ちゃんと一緒にいたら、押し倒して乗っかりたくなっちゃう」
「どんな表現だよ」
もう少し可愛げのある言い方はないかとため息が洩れたけど、回りくどいよりかはいいんだろうか。そう思ってしまうのは、だいぶ環に毒されている証拠かもしれない。
なんにせよさすがに一人で帰せないからと逃げようとする環を捕まえて、かなり強引に家に送り届けた。その間環は借りてきた猫みたいに、行儀よく膝の上に手を置いたままずっと黙っていた。なんでこのタイミングで緊張するんだろうか、こいつは。つくづくよくわからない性格をしている。
「ちゃんと傷冷やせよ。それと、週末はちゃんと外泊許可を取ること」
「わかってるよ。優ちゃん、あんまりごちゃごちゃ言うとおっさんみたいだよっ」
家の前に着くと、去り際にひどいセリフを残して、環はさっさと車を下りて帰っていった。心配してやってる俺になんて態度だ。
それに俺はまだ24でぴちぴちの若者だぞと憤って、あいつとの7つの年の差におののいたのは別の話。
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