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fellow key 7

 土曜日、俺はその提案をほんの少し後悔する羽目になった。  遊園地に着き、いきなりのバンジーから始まり、フリーフォールにバイキング、ループコースターに加え二度目のジェットコースターを乗り終え、さすがに休ませてくれと挙手をして申し出たのはまだ昼前のことだった。  フードコートの前にある色あせたパラソル付きのテーブルにつくと、環は俺の渡した財布を持って食料を調達に行った。  それを見送りながら、座った途端に疲れが噴き出してきた体をばったりとテーブルの上に投げ出す。まだ目の前が回っていて、遠くの楽しそうな家族連れさえゆらゆら揺らめいて見える。  ……おかしい。俺まだ20代前半だぞ。  ついこの前まで学生だったし、それほど年を取ったつもりはないのに、あまりのアクティブさに体がついていかない。 「やっぱ土曜だとそれなりに人いるね」  テーブルに突っ伏す俺の元に戻ってきた環は、ハンバーガーとホットドッグとジュースのカップを二つ抱えていて、改めて体力の差を見せつけられる。だからコーヒーと財布だけ受け取って、あとは全部環に任せることにした。 「友達と来た時全然人いなくて、四回連続で乗ったから笑いすぎて疲れたけど」 「お前の友達みんなそんな感じなのか?」  うなだれた体勢のままアイスコーヒーを啜る俺の横で、環は大きく口を開けてハンバーガーを頬張る。  今日の環の格好はパーカーにデニムととてもカジュアルな一般的な男子高校生で、綺麗な顔にまったく構わず大口を開けて食っている姿がまるで子供みたいだ。バーにいた時のシンプルなシャツにパンツ姿は本当に大学生にしか思えなかったけれど、こう見ると本当にただの高校生だ。  そんな奴がああいうところで体を満足させるためだけの相手を探すというのは、やっぱり良くないことだよなぁとしみじみ思ってしまった。 「優ちゃん、おじさんみたいだな」 「いや、お前が元気すぎなんだろ」 「まあ最近夜遊びしてないし」  ぐったりしたままコーヒーを飲んでいるのが面白かったのか、笑いながら顔を覗き込まれたからジト目で返す。  そりゃ高校生からしたら、ほとんどはおじさんになるのかもしれないけれど。それにしたって元気すぎだろと愚痴る俺にまさかの返事。  思わず息を詰まらせた俺を横目に、あっという間にハンバーガーを平らげた環が肩をすくめてみせる。 「っていうのは冗談で、楽しいからテンション上がってるだけだよ」 「……ま、楽しいならいいけど」  続いてホットドッグに手を伸ばしながら言う環はご機嫌で、色々な言葉が舌の上に踊った挙句、それだけが口の中から出て行った。  環が楽しいというのならそれでいいじゃないか。俺がおっさんかどうかはどうでもいい。 「優ちゃん、体力取っておいてね? 夜へばられたらやだよ」 「だったらちょっと手加減しろ」  指についたケチャップを舐める環の仕草がなにかの暗示のようで、それから目を逸らせて唸る。せめてもう少し穏やかなアトラクションで楽しませてくれ。 「じゃああれ乗ろ。ライド系なら座ってられるし。それともメリーゴーランド乗る?」  指さされたのは近くのお化け屋敷。とは言っても可愛いお化け型のライドに乗っていれば勝手に進むものらしく、確かに楽そうだ。もちろんメリーゴーランドは却下で。 「よっし。食い終わったら……ってもう終わってんのか」  あっという間に口の中に詰め込んだ環が最後とばかりに思い切りよく飲み込むから、その食べっぷりに拍手をしたくなった。細いけれど身長がある分なかなかの大食いらしい。それともこれも若さか。 「ん、行こ」 「待て、ついてる」  満足そうにジュースまで飲み終わって立ち上がろうとした環の手を掴んで引き留める。勢いよく頬張ったせいで口元にケチャップをつけたままだったから、紙ナプキンで拭ってやったら妙に不満そうな顔をされた。 「なんだよ」 「そういうのは、優ちゃんが指で取って舐めてくれるんじゃないの?」 「そんなキザな真似しません」 「ぶーぶー」  普通に人がいる場所でそんないちゃつくような真似できるかと、俺としては至極まともな意見のつもりだったのに、環からは大ブーイング。  だからもう一度紙ナプキンで口元を拭くついでに黙らせて、ごみをゴミ箱に捨ててからさっさとお化け屋敷へ向かった。  こういうものは流行らないのか前後に人は乗っておらず、その分響く機械音を耳に真っ暗な部屋の中を進んでいく。隣の環は興味深そうに周りを見回しているけれど、恐がってはいないようだ。もしかしたら他の客の悲鳴というのはお化け屋敷には大事な要素なのかもしれない。  そんな環の手が、手すりの上に乗っているのを見て、なんとなく前後を確認。空っぽのライドと機械仕掛けのお化けがあるばかりで、当然ながら人の姿も人の目もなし。  その確認を終えてから、置かれた環の手に自分の手を重ね、そのまま握ってみた。  すると今まで周りを見回していた環の視線が驚いたようにそこに注がれる。 「……なんか、すげーデートみたい」 「みたいじゃねぇよ。してんだろ、今」  二人で遊びにきてはしゃぎまわるのもいいけれど、デートといったらこういう方が大事だろと照れ隠しで握った手に力を込めれば、環は「そっか」と素直に納得していた。  そうやって大人しくされるとそれはそれでこちらが緊張してしまって……お化け屋敷の内容は正直覚えていない。

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