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fellow key 8

 それからは比較的大人しめのアトラクションをのんびり楽しんで、なんだかんだで夕方まで過ごしてしまった。  そこまで遊び倒す気はなかったはずなのに、気づけば日が落ちている。 「そろそろ帰るか」 「ねえ、優ちゃん。観覧車は、乗らない?」 「乗りたいのか?」  男二人で観覧車もどうかと思ったけど、乗りたいというのなら断る理由もない。まあ、デートだと観覧車はお決まりか。  そもそも男二人で遊園地にいるというのをどう思われているのか。少なくとも、友達同士で来たんだろう女の子たちがすれ違った環をときめいた目で見ていたから男同士のカップルとして忌避はされていないんだろうなとは思う。みんなそれぞれが楽しむために来ているんだから、案外人のことなんて気にしていないのかもしれない。……というのは俺の希望的観測。  環本人は特に気にしていないようで、やってきたゴンドラに向かい合わせに乗ると頬杖をつくようにして外を眺めて楽しんでいる。その様は年上の男の俺から見ても決まっていてかっこいいのが少々悔しい。きっと普通に女の子にモテるんだろうに、本人はそれじゃあ幸せじゃないのだから世の中はうまくできていない。  その辺の、という言い方は失礼だけど、それでも一般的な女性より綺麗な顔をしている環は、それでもしっかり男で女っぽさもなくて、女の代わりという感じではないから変なものだ。  そんな環は俺の視線に気づくとにやりと笑うことで遠慮なくその整った顔を崩してみせる。 「てっぺんでちゅーする?」  頂上までもう少しかかるタイミングでそんなことを言われ、肩をすくめて返す。 「お前って意外とロマンチストだよな」 「デートってそういうんじゃないの?」  いちいち「デート」に対する反応が妙というか、夢を見ているきらいがあるというか。  体の欲を満たすために夜遊びを繰り返していたわりには変なところがピュアな奴だ。  でもまあ、この観覧車にもぽつぽつしか人が乗っていなかったし、周りに人の目がないことを確認してから別にいいかと環を引き寄せてキスをした。胸倉を掴むような、一歩間違えれば殴り合うみたいな体勢だけど、男同士だからこその体のでかさのおかげでこれでも悠々届く。 「わっ……んっまだてっぺんじゃ……」  ……こうなってみて、環が意外とキスに慣れていないことに驚いた。それ以上のことが目的だから、今まではあまりしてこなかったんだろうか?  少し深いキスをするだけで息継ぎが上手く出来ないのか、溺れたように空気を求める環のせいで、なんだかいけないことをしている気分になる。  実際こなした数というか、経験値の差で若干の引け目を感じていたけれど、遊びじゃない場合は意外とイーブンなのかもしれない。なんてことを思いながら舌を滑り込ませると、俺のシャツを掴む環の手に力が入った。なんというか、すごく「初めて」っぽい反応でこっちが戸惑う。  ……いや、まさか、そんなはず。いや、待てよ。「デート」に対する妙な反応と、明らかに慣れていないキスと。 「……環……まさかとは思うけど」 「ん、なに?」 「今までキス、したことないなんて、言わないよな?」  まさかそんなわけないだろうけど、と半分冗談めかして素直な疑問を口にすれば、環は黙り込み、見る見る赤くなっていった。それからふいっと俺から顔を逸らせて。 「……この前、優ちゃんにされたやつがファーストキスだよ」 「嘘だろ?」  さすがにそれは冗談だろと笑おうとしたけれど、環は力の入っていない猫パンチを俺に食らわせ、泣きそうな顔をして膨れる。それだけじゃ足りなくて長い脚で蹴ってきたから、その勢いでゴンドラが揺れて慌てた。とりあえずもう一度、今度はちゃんと隣の席に座らせて抱きすくめて落ち着かせる。さすがに片方の座席に詰めると少し狭いけれどこの際仕方ない。 「~~~したことなくて悪かったな! この前のやつが、正真正銘俺にとってのファーストキスだよ!」  その状態でのこの言い方はどう見ても嘘をついている感じじゃなくて、さすがに度肝を抜かれた。  ファーストキスって。いや、ただの高校生だったらそれでもおかしくないかもしれないけど、環が? 初めて会ったばかりの俺にフェラさせろと楽し気に持ちかけてきたこいつが? 「今までしたことないのか? 一回も?」 「だって目的はセックスだけだもん」 「それだって、流れでするだろ普通」 「普通じゃねーし」  マジで言ってんのか、と疑う俺に、環はひどくふてくされた顔で返してくる。  どうやら環は、『普通』という言葉にかなりコンプレックスを持っているらしい。ていうか、行きずりの男と寝るくせに、キスはしたことないとか。どうなってんだ今時の若者は。

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