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第3話
東京での新しい生活は目まぐるしく過ぎていき、しかしそんな中でも俺と正弘さんは確実に距離を縮めていった。
朝早く起きた方が2人分の朝食を用意して、夜は早く帰ってきた方が2人分用意する。大抵朝は正弘さんで、夜は俺だった。母、正弘さんにとっては姉の存在が大きく、食の好みは似通っていた。
正弘さんは意外と料理が上手だった。俺はというと包丁なんて握ったこともなくて、最初は分担制にも関わらず何もできずに正弘さんの手を借りて作っていた。
焦がしてしまったり盛り付けが残念だったり、そういうささやかな失敗の度に大笑いする正弘さんの笑顔が無邪気で、特に若作りでも童顔でもないのに齢 35になるとはとても思えない程だった。
そうして1年があっという間に過ぎていった。
1年の間に俺はモデルとして随分名を広め、大型新人として多くの仕事をさせてもらった。ファッション誌を中心に雑貨広告やメンズ化粧品のイメージキャラクターにも抜擢された。
マネージャーや社長は大喜びでどんどん仕事を入れてくれるために、忙しい日々を過ごしている。
「正弘さーん!ごめん寝坊した!朝ごはんいらねーや!」
「バカヤロー!朝飯食わねーでいい表情が出るか!持ってけ!」
「やべー!!正弘さん好き!!」
バタバタと家を出ようとする俺にいつものランチバッグに加えてもう一つバッグを押し付けた正弘さんにガバッと抱き着くと、正弘さんは面倒臭そうに大きな大きな溜息をついた。
この1年で、俺の中で正弘さんの存在は欠かせないものになった。
仕事前には行ってらっしゃいを、帰って来たらお帰りを言ってくれる。正弘さんはどんどん忙しくなる俺に栄養バッチリのご飯を用意してくれる。不規則な生活の中で何のストレスもなく体型を維持できているのは間違いなく正弘さんのおかげだし、いつも心穏やかに過ごせているのも正弘さんのお陰だ。時にはポージングや表情、光の角度なんかも見てくれてアドバイスをくれる。身内だからなのかそれとも正弘さんがモデルに対する姿勢が本来そうなのか、とても厳しくて俺は未だに褒めてもらったことがない。
いつか正弘さんに認めてもらえる日が来たら、その時は俺をモデルに写真を撮ってくれた頼もうと思っているのに、だ。
「じゃっ!行ってきます!」
「おー、頑張れ。」
「おっす!」
そして一番変わったのは、俺の正弘さんに対する気持ちだ。
ずっと側にいて欲しい。
いつも笑顔で俺を支えてくれる彼に、いつしか憧れを超えた感情を抱くようになっていた。
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