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第4話

「えっ…写真集、ですか?」 ニヤニヤと歓喜の表情を抑えきれずにいる社長に素っ頓狂な声で返事をすると、その横で満足そうにウンウンと頷いていたマネージャーが一枚の契約書をさっと差し出した。 そこにある名前に、俺は目を疑った。 「そうなんだよ〜しかもなんと!なんと!なんと!!カメラマンはあの瀬尾 正弘氏だ!!いやぁ〜〜〜苦労したよなんせ今一番旬のカメラマンだからな!!」 まさかこんな幸運が転がり込んでくるなんて、微塵も思わなかったからだ。 ─── かくして1ヶ月後、俺は初めて撮影に参加した時よりもガチガチに緊張してスタジオの隅っこに佇んでいた。 目の前では大勢の人がバタバタとセットを作って走り回っている。中心になって色々な指示を出しているのは正弘さんだ。普段の雑誌の撮影ではカメラマンが中心になって現場を作ることはまずないので、いかに正弘さんが自分の中の世界に確固たるものを持っているのかがわかる。その世界の中で、俺は輝けるのだろうかとただただ不安が押し寄せた。 「じゃあ愛都(まなと)、入って。」 「あ、ハイッ!」 そんな俺を知ってか知らずか、いや知っていたところで知ったこっちゃないのだろうが、容赦無く本番はやってくる。 こんなに不安で、大丈夫なんだろうか。 バッと照明が点いて、スタジオ中の視線が俺に集まる。正弘さんがカメラを持って、真剣な眼差しでこちらを射抜くように見ている。いつも一緒に生活している正弘さんとあまりにかけ離れたカメラマンとしての顔に、一気に身体が緊張して強張った。 「愛都。」 そしてガチガチの俺に声をかけてきたのは、その正弘さんだった。低いけど温かい声は、じんわりと心の奥を穏やかにしていく。 「最初から良いショットなんて撮れねーから。軽い気持ちでいつも通りやって。」 途端にいつもの顔を見せた正弘さんに、ホッと肩の力が抜ける。と、その瞬間正弘さんは信じられない速さでカメラを構えてシャッターを切った。 今、絶対間抜け面だった。 自然と笑顔になった。 俺は深く深く息を吸い込んだ。今度は震えていない。しっかりと肺の奥まで空気を取り込んで、今度は俺の方から真っ直ぐに正弘さんを見据えると、優しい眼差しと視線がかち合った。 「…よろしくお願いします!」 俺の大きな一声を皮切りに、スタジオの空気感が変わった。

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