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第6話
ちゅ、と小さなリップ音を立てて離れて行った唇の感触が、まだ生々しく残っている。柔らかくて温かい、他にどう表現するのだろう、とにかく初めての感触だ。
そう、初めてのキスだ。
あまりに突然訪れたそれに、俺は呆然として唇をなぞった。そんな俺を見て、正弘さんは濡れた唇を開いた。
「初めてか?」
こくり、と小さく頷いた。
「そうか、やっぱりな。」
「や、やっぱりってどういうこと?」
「色気がねぇなーと思ってたんだよ。19だろ?その年頃特有の少年と青年の狭間のような…お前彼女とか出来たことねーの?」
その質問に、俺はグッと押し黙った。
彼女がいたことはある。別に好きだったわけでもなんでもなかった。ただ彼女というものに興味があっただけ。相手の女の子も、多分俺というステータスが欲しかっただけ。そんなバカな高校生の恋人ごっこだ。だから当たり前に何も起こらなかった。
「…ま、早けりゃいいってもんでもねーからな。気にすんな、それならそうで方向性を…」
俺はその言葉の続きを、自らの唇で塞いだ。柔らかい唇を強引にこじ開けて無遠慮に舌を差し込むと、中で息を潜めていた正弘さんの舌に絡ませる。少しのタバコくささと甘さが入り混じった不思議な味を堪能して、ぴちゃ、と卑猥な水音を響かせてゆっくりと離れて行った。
「………ヘタクソ。」
正弘さんは開口一番ほんのり目元を赤く染めた色っぽい表情でそう吐き捨てて、もう一度キスした。
テーブルを挟んだキスはどうにももどかしくて、すぐにお互い席を立ってどちらからともなく寝室に向かった。正弘さんが使っているシングルベッドは男二人分の体重を受けてギシッと悲鳴をあげたけど、俺たちは一切気にしなかった。
「…流石に、いい身体してんな。」
そういう正弘さんも細身ながらにしなやかな筋肉を纏った美しい身体で、俺は上から下までじっくりと愛でた。正弘さんは時折息を詰めて喘ぎを殺していて、それがなんとも艶かしくて、今までお世話になった安いAVなんかよりずっとずっと扇情的だった。
「正弘さん…ッ!」
「はッ…がっつくなバカ、ッ…!」
「正弘さん、正弘さん…!」
壊れたレコードみたいに正弘さんの名前を呼びながら何度も何度も穿ち、何度も何度もキスして、そして最奥に劣情を注ぎ込んだ。
「愛都…」
最後の最後、正弘さんはたった一度だけ、何より大切な宝物のように俺の名前を呼んでくれた。
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