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第2話
「綾斗!」
「…………」
「ねぇ綾斗大変!起きて!」
「…………なに」
「大変なの!ねぇねぇ!」
「なんだよ……」
眩しい朝日と騒がしい声に無理やり意識を引っ張り出される。しまいには寝起きの体をユサユサと揺さぶられ、働かない頭が更にシェイクされていく。
目を開けると、母が焦ったような表情で俺を起こしている……気もするが、若干笑っているような気もする。今日も朝から何かしでかしたのかと一瞬心配になったのだが。
「大変だよ綾斗……。 朝!」
ただ鬱陶しいことこの上なかった。起こしに来るにもやり方があるだろ、と少しの怒りを込めてケタケタ笑っている母に枕を投げつけるが、軽く投げただけのそれは母の笑いを更に助長するだけに終わった。
都内に住む羽山家は父と母、そして俺の三人家族だ。父・正臣と母・恵美との間に産まれた俺、羽山綾斗は、今年念願だった国立大学の経済学部に入学した。
父は大企業ではないがそこそこの会社に課長職として務めるサラリーマンで、母はパートで働きながら趣味であるガーデニングを楽しんでいる。
ごくごく普通の、どこにでもある一般家庭なのだが、羽山家には普通の家庭ではない所が一つあった。
それは、俺、羽山綾斗がΩだということ。
両親は共にβでΩの子が産まれてくるなど想像もしていなかった。母はそのことにずっと悩み、自分を責めていたようだが、俺が発情期を迎えてからも抑制剤やピルを使いながらうまく生活出来ていると分かってからは、ようやく納得してくれたようだ。
両親は俺がΩだと分かっても決して見捨てずに面倒を見てくれたし、俺自身もΩだからなんだとプライドを高く持ち努力してきたおかげで、一般的に知られるΩの人たちよりはあまり差別的な苦労はしてこなかったように思う。
それでもやっぱり発情期はつらいし、それによる友人とのトラブルもないとは言えない。しかしそれを両親が知った時、どんなに自分たちを責めるだろうと考えると、相談なんてできるはずもなかった。
知らない内に、俺は悩みを打ち明けるということが出来なくなっていた。
両親が自分たちのせいだと嘆く姿を見たくない。そのために、勉強もスポーツもなにもかも人一倍努力し、αと並ぶ実力をつけた。両親も喜んでくれるし、俺自身も自分がΩだという劣等感を感じずにいられる。
将来は絶対的な職に務め、Ωだからという差別を覆してやると強く思った。そのために国立大学を受験し、本物の自分の実力で入学することを決めた。
大学生活も安定しており、1ヶ月経った今、何もトラブルは起きていない。友人もでき、有意義に学べる場に毎日充実した日々を送っていた。
今日もこれから学校へ行くのだが、今朝は母の機嫌がMAXに高いらしい。ひとしきり笑い終えた母は満足したのか部屋を出ていき、俺は1人のそのそと準備を始めた。
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