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第5話
『用事って、仕事? 最近、忙しくなったね。あまり無理しないで』
アプリを開いてそれを読んだ途端、睦月はこみ上げてくる嗚咽を抑えるために、片手で鼻と口を覆った。しかし、堪えきれず、視界が不自然に歪んでいくのがわかった。
へなへなと足の力が抜けてしまい、睦月はその場にしゃがみこむ。足元の乾ききったアスファルトに、ぽつぽつと涙のシミが出来ていった。
自分はこんなに醜い感情でいっぱいいっぱいだったのに。
彼は突然帰ったことを責めたりすることもなく、こうして心配してくれる。
どうしたらいいのだろう。
睦月は涙を流しながら苦悩する。
彼を、祐太を失いたくない。
こんなに優しい人を、自分の我が儘な感情でがんじがらめにしたくない。
「……大丈夫ですか?」
いつまでもうずくまって動かない睦月に、見知らぬ女性が声をかけてきた。
頭を上げると、泣いているのがわかったらしく、彼女は心配そうな顔つきになる。
「気分でも悪いんですか? もしよかったら、救急車呼びましょうか?」
「いえ、大丈夫です。すみません……ありがとうございます」
よろよろと立ち上がり、涙の残った瞳で笑顔を無理やり作ると、睦月は彼女にお礼を言った。女性はまだ心配そうにしていたが、睦月の笑顔に納得したらしく、そのまま立ち去っていった。
いつまでも、こうしてはいられない。
睦月は、駅に向かって歩いて行き、切符を買って改札口を抜けてホームへ入る。ちょうどやってきた自宅方面への電車に、そのまま飛び乗った。
そこそこ混雑した電車に揺られながら、睦月はぼんやりとこれからのことを考えていた。
自分の祐太への気持ちは、彼にとって毒になりこそすれ、何のためにもならない。だからといって、パソコンのデータのように、リセットボタンを押せば簡単に消えてなくなるものでもない。
だけど……。
高ぶったものを鎮静することなら、何とかなるのではないだろうか。
迂闊に、彼に近づきすぎたのだ。だから、変に期待してしまった。
それなら、少し距離を置いてしまえば、もしかしたら、余計な物思いにふけることもなければ、普通の友人として相対することができるかもしれない。
何よりも、祐太自身を失いたくなかった。
大丈夫、と睦月は自分に言い聞かせる。
大丈夫。この気持ちは、まだ芽生えたばかりだ。
すぐに余計な葉をそぎ落として、植え替えることができる。
そう。『友情』という名の鉢植えに。
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