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お泊り

テーブルに料理が並び、チーズケーキが焼きあがったところで玄関のチャイムが鳴った。 忙しくしている母さんのかわりに出迎えると、元気いっぱいに伊織が僕に抱きついてきた。 「竜太君ー! 元気だった?」 後ろでおばさんが呆れ顔。 「竜太君ごめんね、本当にこの子竜太君にばっかり懐いて……」 「あ、中入ってください。おじさん、おばさんいらっしゃい」 リビングに案内すると、すぐにおばさん達は周さんに気がついた。 「え……っと?」 「あ、初めまして。すみません、部外者が……」 周さん、少し緊張気味におばさんに挨拶を始める。 「あらいらっしゃい。この子は周君ね。竜太の学校の先輩なのよ。 仲良くしてもらっててね、もう家族みたいなもんだから私が呼んだの。イオちゃんはもう会ってるのよね」 母さんが楽しそうにそう言うと、途端に伊織は不機嫌になった。 「おばさん……そろそろイオちゃんって呼ぶのやめてください 」 母さんの後ろで周さんが意地悪そうな顔をして、小さな声で「イオちゃん…」って呟くもんだから、伊織は真っ赤になって周さんに食いついた。 「うるせぇよ周! お前がイオちゃん呼ぶな!」 もう! おばさんもおじさんもびっくりしちゃってるじゃん…… 「周さん! 伊織の事からかわないでください! 伊織も周さんに怒鳴らないの!」 初めて会った時から仲の悪かった周さんと伊織。 すぐにケンカするんだから。 でもケンカと言っても、伊織が一人で周さんに突っかかってるんだけどね。 「今日は伊織のお祝いだよ。仲良くね。周さんもここはもう大丈夫ですから……」 手伝ってもらってばかりで悪いと思いそう周さんに言ったけど、おじさんおばさんのところにいても初対面だし気まずいかな? ちょっと心配になってリビングを見たけど、周さん、すぐにおばさん達と打ち解けて楽しそうにお喋りをしていた。 母さんの手伝いをしながら、料理を運ぶ。 周さんもすぐに気が付き手伝ってくれた。 今夜は大勢でお祝い。 久しぶりに会う伊織やおじさんおばさん。 楽しそうに笑いながら喋っている周さん。 ちょっと不思議な感じがした。 周さんが家族の一員みたいだ。 食事もだいぶ片付き、デザートのケーキを食べ始めた頃伊織が嬉しそうに母さんに言った。 「今日は俺、泊まってってもいい?」 母さんは笑いながら「勿論いいわよ」と返事をする。 おばさんは急な伊織の発言に慌て、申し訳ないから連れて帰ると言っているけど、母さんは全く気にせずにひとりもふたりも一緒だと言って笑った。 「周君もどうせ泊まるんでしょ?」 結局伊織も周さんも、今夜はうちに泊まる事になった。 「どうする? 狭くなるけど竜太の部屋にお布団二人分敷く? 誰かリビングで寝る?」 母さんが客用の布団を出しながら僕たちに聞く。 「周がリビングで寝りゃいいじゃん」 「はぁ? お前遠慮しろよ。俺は竜太の部屋に決まってんだろ?」 早速二人が揉め始めてしまった。 「母さん、お布団二組、僕の部屋でいいから……周さんも伊織も、うるさく喧嘩するなら僕がリビング行く」 そう言うと、二人ともやっと大人しくなり母さんの布団運びを手伝った。 「お風呂、母さん最後でいいから入っちゃいなさいね。周君、竜太と一緒にさっさと入っちゃって」 ……え? 「いや、僕ひとりでいいから! 何で周さんと?」 「あら、だって一緒に入った方が早いでしょ? 今日はイオちゃんもいるんだし……」 母さんは何を考えてるんだか……何も考えてないんだか、とんでもない事を言い捨てさっさと部屋へ行ってしまった。 「俺は別に構わないけど? 竜太、風呂行こ」 ほら……周さん、もう顔がいやらしくなってる。 「一人ずつ入ります!」 母さんもあまり深い意味で言ったわけじゃないし、本当は一緒に入っても構わないんだけど……伊織もいるし、やっぱり僕は恥ずかしいよ。 そう思って、僕は小さな声で周さんに「ごめんなさい…」と謝った。

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