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周と伊織の内緒話
竜太を先に風呂に行かせ、俺は布団でゴロゴロ遊んでる伊織に声をかけた。
「なあ、伊織。 お前アレ、どうなった?」
俺の事をジロッと見て、なんの事だと言わんばかりに怪訝な顔をする伊織。
「ほらぁ、お前好きな奴いるって言ってたじゃんか……どうなったかなぁって思ってさ」
正月明けに竜太が怪我をして病院に行った時に、診察待ちのあいだに俺は伊織と恋バナをしたんだ。
幼馴染の女がいて、本当は好きなんだけど男として見てくれないかも……なんて弱気だったから、俺はちょっと発破をかけた。
思い出したのか、顔を赤くして伊織は布団の上に座りなおした。
「あぁ……それね。うん、周が俺に大丈夫だって言ってくれたからさ、卒業式の前に俺……頑張って告白してみたんだ」
恥ずかしいのか、俺から目をそらしてモジモジと話す。
そのモジモジとしている姿も竜太みたいでちょっと可愛い。
「で? どうしたんだよ。教えろよ」
「……付き合う事になった」
耳まで真っ赤にして伊織は嬉しそうに呟いた。
「マジか? よかったなー! お前、自信ないみたいな事言ってたじゃんか。嬉しいなぁ!」
俺は小さくなって恥ずかしがっている伊織の腕をバンバン叩いた。
「それにしてもよ、よく考えたら生意気だな! まだ中坊だろ? デートとかもうしたの?」
興味津々で伊織に聞くと「こないだ……手ぇ繋いじゃった」なんて可愛い事を言う。
「お前やるじゃんか! ドキドキすんな! 手、繋いだか……そうかぁ。いいな! そういうの…… 」
付き合い始めなんてドキドキしたり相手のことばかり考えたり、その事しか頭にないよな。初々しいのがちょっと羨ましくもあった。
そう思って口にした俺の言葉に伊織がポカンとした。
「周と竜太君だって手ぐらい繋ぐだろ?」
「そりゃ繋ぐぞ……てか、公衆の面前では男同士だから控えめにしてっけど。それにもうそれ以上の事してるし」
「………… 」
あ……
余計な事言ったか? 俺。
伊織が急に真剣な顔つきになり、俺に近寄ってくる。
「ん……? なんだよ」
ちょっとその真剣な顔にビビった俺は、少し後退り伊織を見つめた。
「あのさっ! あの……どうやったらその……キ、キス出来るかな…… 」
真っ赤になって俺に聞く伊織が可愛くて思わず吹き出してしまった。
「なんだよお前、唐突だな! 彼女とキスしたいのか。そんなの好きな時に勝手にすりゃいいじゃん」
「ばっかじゃねーの? 勝手になんかできっかよ!……キスだぞ? ……その……タ、タイミングとかさ、ムードとかもあるじゃん。あいつだって……初めてだろうし」
なにこのモジモジした、ちっさい竜太!
おもしれー!
「だって、彼女だってお前の事好きなんだろ? 二人でいる時に何となくそんな雰囲気になったらグッと抱きしめてチューってすりゃいいんだよ。その時の雰囲気! なんとかなるって」
いやさ、ちゃんと教えてやりたい所だけど……
こんなの各々だろ?
俺がこうしろって言う事じゃねぇよな。
それに卒業式前に告白して付き合うようになったって言ったよな?
今まだ春休み中だぞ?
付き合ってまだ数日??
どんだけヤりたい盛りなんだよ……
まぁ、そんなお年頃か。
「とりあえずはさ、部屋とかで二人になるじゃんか? そしたらなるだけ近くに座るんだよ……ほら、こうやってな…… 」
俺は布団の上に座る伊織のすぐ横に並んで座った。
「彼女、伊織より小せえんだろ? ほら……こうすると自然に肩、抱けんじゃん」
試しに俺は伊織の肩を抱いてやる。
そうしたら、伊織の体が小さくビクッとなった。
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