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真相
しばらくして伊織が風呂から戻ってきた。
「周、お待たせ」
「お……おう、じゃあ風呂……行ってくる。竜太?」
「………… 」
僕はまださっきの事を怒ってる。それに伊織と顔を合わせ辛い。
周さんは僕の方をチラッと見て何か言いたげな顔をする。でも僕が不機嫌オーラを出してるからか、これ以上は何も言わずにお風呂に行った。
……気まずい。
伊織が濡れた髪を拭きながら、じっと僕の方を見る。こっちを見ているのはわかってるんだけど、どうにも素直に伊織の方を向けないでいた。そしていつまでも外れることのないその視線にやっぱりいたたまれなくなり、諦めて僕は伊織の方を見た。
「竜太君、周とケンカしちゃった?……ごめんね。覗き見しちゃって。俺のせいだよね」
「………… 」
さっきの周さんとのキスを思い出し、恥ずかしさで顔が熱くなってくる。
「竜太君?……ごめんね?」
僕の顔を覗き込むように、伊織が謝る。でも違う……悪いのは伊織じゃない。
「ううん……違うんだ。伊織が悪いんじゃないよ。その……変なところ見せちゃって……ごめんね」
やっぱり伊織の顔が見られない。恥ずかしい。
僕は伊織の顔をチラッと見たけどすぐに伊織から目を逸らしてしまった。
「全然変じゃないし! 違うんだよ! 俺がいけないの……俺が周にキスってどうやるのかなんてバカな事聞いたから…… 」
キスをどうやるか?
はぁ?
「え? 何言ってんの? ……何でそんな事周さんに聞くの?」
驚いて思わず声が大きくなってしまった。
「いやさ、俺好きな奴いたじゃん? そんで付き合う事になったから……キスしたいじゃん。周、前に相談乗ってくれたから……ついまた聞いちゃったんだよね。そうだよね、普通はこんな事聞かないよね。ごめん」
「……?」
伊織の好きな人? え? 周さんが伊織の相談に? いつの間に?
そんな事聞いてない……
そんな話、僕は知らない。
「キスするタイミングとかさ、雰囲気がわからないって聞いたらそんなの勝手にすりゃいいなんて言ってて……で風呂行ったら服忘れてて、取りに戻ったら……周と竜太君キスしてるし、なんかいい雰囲気で思わず見惚れちゃって……周と目が合ったんだけど何も言わないでそのまま続けるから、見ちゃってもいいかなって思わず。本当ゴメン!」
伊織は話を続けてるし、僕の頭の中はハテナでいっぱいだし……混乱してしまって伊織の話なんて半分くらいしか聞けなかった。
「ねえなに? 好きな人って……」
伊織に好きな人がいたんだ……僕、知らなかったよ。
「あ? 竜太君、周から聞いてない? 嘘っ? うわぁ……周ってば律儀に秘密にしてくれてたんだ。確かに 内緒ね って言ったけどさ、周のことだから竜太君には話してると思ってた。周やっぱりいい奴だね! 」
伊織が周さんのことを信頼の置けるいい奴だと言って笑ってる。
僕はちょっと頭を整理した。
そっか……
伊織が周さんに恋の相談をしてたんだ。そしてその相手と晴れて付き合う事になって……
そしてキスの仕方?
「ちょっと待って、伊織? その……キ、キスってまだ早くない? ダメだよ! まだ中学生でしょ? 早いよ 」
だって伊織はついこの前、小学校を卒業したばかりだよね?
まだ中学生だよね?
彼女とキス??
何言ってんの? 早いでしょ!
僕だって高校入って初めてキスをして、周さんを好きになって……
そして色々と……
え? 待って? もしかして僕が知らないだけで皆んなはこういう事ってもっと早くに経験するものなの?
ああ……ダメだ。
僕にはわからない。
「竜太君? どうしたの? ……大丈夫?」
僕が混乱して黙り込んでしまったからか、伊織が心配してる。
「あ……大丈夫。でも、伊織! ダメだよ、まだそういうの、早いよ……」
僕の言葉に伊織が吹き出して笑った。
「竜太君、顔真っ赤! 別に早くないよ。キスくらいいいでしょ? 好きなんだもん、俺だってしたいよ……」
「………… 」
そうだよね……
好きなら触れ合いたい。
「竜太君、さっきのは全部俺が悪いの。だからさ、ちゃんと周と仲直りしてね。俺、今回はリビングで寝るから……」
そう言いながら、伊織は布団を運ぼうと動き始める。
「いいよ、伊織も僕の部屋で寝なよ」
慌てて止めようとそう言ったけど、伊織はぶんぶんと首を振った。
「いや、俺がいたらちゃんと仲直りできないでしょ? 話しにくいでしょ? 俺の事はいいから……ね?」
そう言って僕の肩をポンと叩いて、伊織は部屋から出て行ってしまった。
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