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新学期

春休みも終わり、新学期が始まった── 僕らは新しい教室へと向かう。 ついこの間まで周さんたちが過ごしていた二年生のフロア。今までは階段を上がって周さんたちのいるフロアへ行っていたけど、今度からは渡り廊下の向こう側だ。周さん達三年生のフロアは隣の校舎の二階だから、渡り廊下を渡ったらすぐに行ける。 そう、近くに存在を感じることができるからちょっとだけ嬉しい。 「じゃ、またお昼にね……クラス違うの、やっぱり寂しいね」 僕は隣の教室に入っていく康介に声をかける。康介とは今までクラスが一緒だったからこうやって違う教室に入って行くのが変な感じだ。 「昼休みだけじゃなくても遊びに来るからそんな寂しそうな顔すんなよ。じゃ、またあとでな」 そう言って康介は僕の頭をポンと軽く叩いて隣の教室へ入っていった。 自分のクラスへ入っていくと、窓際の席に人集りが出来ている。近づくと、その人集りの中心に志音がいることに気がついた。 「おはよう、志音」 遠巻きに声をかけると「あっ!」と言う声とともにその人集りから志音が出てきた。 志音は僕の席の前に座りなおすと「おはよう! またよろしくね」と笑顔満開、爽やかに挨拶をしてくれた。 志音の事を取り巻いていた他の生徒も一緒にくっついてくるから、あっという間に僕らの周りに人が集まる。 「君、渡瀬君だよね? 志音君と仲いいんだね」 「そういえば渡瀬君ってD-ASCHのメンバーとも仲いいんだよね? 谷中先輩と橘先輩って怖くないの? かっこいいけど怖そうで近寄り難いよね。志音も仲いいんでしょ? いいなぁ」 まだ名前も知らないクラスメート達に矢継ぎ早に話しかけられ困惑する。 あぁ……そっか。 周さん達の事が気になるからみんな僕に近づいて来るんだ。そしていつも志音の周りが賑やかなのは、志音がモデルだから…… なんだかこういうの、煩わしいな。自分勝手にどんどん喋って、はっきりいって僕のこと置いてけぼりじゃん。ついていけない。 「ねえ、待ってよ。みんな同じクラスなんだよね? 僕の事、知ってるみたいに話すけど、僕は君たちの事知らないんだよ。名前! ちゃんと教えて。自己紹介しようよ」 堪らず僕がそう言うと、周りは一瞬シンとなった。 志音はクスクスと笑ってる。 「確かに竜太君の言うとおりだよね。俺も君らの事知らないよ? 名前、教えてよ。クラスメートだろ?」 志音もそう言って、僕らを取り巻いていた連中は順番に自己紹介をしていった。 「渡瀬君って、大人しそうだけどハッキリと物を言うんだね。驚いた……」 一人のクラスメートにそう言われ、そうだな……以前は人と話す事なんてなかったし、ましてや意見するなんて事はなかったな、なんて考える。今は思った事をちゃんと伝えられるし、相手の事を考える余裕もできた。 「竜太君はね、見た目によらず怖いから気をつけなよ」 志音がふざけてそう言うから、ここにいる半分くらいは僕の方を見てウンウンと頷いた。 「だよな。あんな怖そうな橘先輩達と対等にいられるんだもん、渡瀬君も怖いんだな」 「………… 」 志音のおかげで僕は怖いんだと勘違いするクラスメートもいたけど、とりあえず楽しそうなクラスでよかった。 こんな雰囲気なら僕もすぐに馴染めそうで安心した。 昼休みになると早速康介が教室にやってくる。 「なぁ、早く屋上行こうぜ! 今日は修斗さんも周さんも学校来てるから一緒に食おうってさ」 「あ、待って……支度するから。志音はどうする?」 まだ教室にいた志音にも声をかけた。 「俺は今日はいいや……ありがと」 そそくさと何か荷物を持ってどこかへ行こうとする志音を見てピンときた。 「ねぇ、それってさ……もしかしてお弁当?」 小声で志音にそう聞くと「シッ!」って口に指を当てられる。 「今日は保健室行くからさ、邪魔が入らないように祈ってて」 赤い顔してそう言うと、志音は保健室へ行ってしまった。 「あれ、手作りだよね? 志音って可愛いとこあるんだな。なんか意外だな」 康介はそう言うけど、志音って高坂先生の前だとすごい可愛いよ。 康介は気づかなかったんだね。

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