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お花見

「康介いたー! 周さんこっちです! 康介と修斗さんいましたよ」 僕と周さんはお弁当を持って公園内を歩いていた。先に来ていた康介と修斗さんが場所取りをしているはずで、さっきからなかなか見つからない二人を探していたんだ。 電話でやり取りをしながら、二人を探していたんだけど思いの外早く見つかりほっとする。大きなブルーシートを広げたところに康介と修斗さんが並んで座ってじゃれあっていた。そしてよく見るとすぐ隣のシートには志音と高坂先生達もいる。 「遅かったじゃん。待ってたよ! 公園入ってすぐにセンセー見つけてさ、一緒に場所取りしたの」 大きなレジャーシートをポンポンと叩きながら修斗さんがご機嫌でそう話す。 じゃれあってたのかと思ったら違ってたみたいで、ご機嫌な修斗さんとは打って変わって康介だけすこぶる機嫌が悪そうだった。 「………… 」 「修斗さん、なんで康介はあんなに不貞腐れてるんですか?」 僕はお弁当を並べ荷物を置きながら、誰とも目を合わせようとしない康介を無視して修斗さんの隣に座った。 康介はそっぽを向いてる。 「あぁ、さっきセンセーのお友達にね、自己紹介したんだけど……俺が康介の事を恋人だって言って紹介したら照れちゃってさ。それで拗ねてんの。可愛いよねー」 屈託無く笑う修斗さんにつられて僕も笑ったけど……たしかに初対面の人にいきなり恋人だって紹介されたらきっと僕も恥ずかしくて困ってしまうと思う。修斗さんは照れてるって言ったけど、きっと康介は軽率に「恋人」だと発言した修斗さんに怒ってるんだろうな。 「普通さ、友達って言わね? ……いきなり恋人って……おかしいでしょ。男同士なのに……普通言う?」 康介はそっぽを向いたままブツブツ言っている。 でも修斗さんもちゃんと相手を見ての発言だと思う。大丈夫だと思ったから正直に紹介したんだ。それも康介もわかっているから、恥ずかしいのと嬉しいのとできっと複雑なんだろう。 「でもさぁ、センセーだって志音と付き合ってんだしいいじゃんか。(ゆう)さん達だって別に偏見ないですよね?」 修斗さんが振り返ると、悠さんと呼ばれた男の人が微笑んだ。 あ…… 僕この人と会ったことある。 「君は初めまして……だよね? 去年ハロウィンのライブに志音と行ったんだけど、そこの背の高いお兄さんはギターの子だよね? 周君だっけ? 俺は悠。そっちにいるのがうちの店員で元揮(もとき)君と太亮(たいすけ)君ね。よろしくね」 愛想よく僕らに挨拶をしてくれた悠さん。側にいる元揮さんも太亮さんも笑顔で会釈をする。 でも僕も初めましてじゃないんだけどな……覚えてないのかな? 「悠さん、そこにいる竜太もハロウィンの時、ライブハウスにいましたよ。わからないかなぁ。俺と一緒に仮装していたんだけど……」 周さんが僕の肩を抱き寄せ、わざと耳の後ろにキスをした。 「ちょっと!……周さんっ!」 突然の行動に驚いた僕は周さんから離れると、悠さんは大きく頷いた。 「え? まさか、あの女の子かぁ! 囚人服着て周君とキスしてた……」 思い出すのそこ? やだ恥ずかしい。 「竜太君、ごめんね。あんなに可愛らしい子がこんなイケメンだとは思わなかったから。改めてよろしくね」 僕はイケメンじゃないし…… 気づいてもらえたのは嬉しいけど、イケメンに「イケメン」って言われるのは嫌味かなってちょっと思った。 「ねえねえ、もしかしてさぁ……男ばっかなの? 女の子来ないの? 夜桜観桜から急に昼間に変更になって高校生が来るって言うからさ、俺ってば女子高生期待しちゃったじゃん! なにこの男率高いのむさ苦しい……」 太亮さんが周りを見渡してため息を吐く。 よく見ると、本当……男ばっかり。 僕入れて総勢九人。揃いも揃ってみんな男だ。 でもいいよね? 問題ある? 「本当だねぇ。でも、周君達カッコいいからそのうち女の子寄ってくるでしょ。よかったね、太亮君」 悠さんがそう言ってクスクスと笑った。 「え? もしかして予定変更したの? 夜桜だったら別に俺、昼間竜太君たちとお花見して、陸也さんとは夜から合流でもよかったのに…… 」 泰亮さんの言葉に志音が驚いて高坂先生を見る。 「いや、せっかく一日志音がオフなのに、夜からだけじゃ嫌じゃんか。できるだけずっと一緒にいたいし、昼間だって一緒にいたい」 そう言って高坂先生は志音の腰に手を回すから、志音は顔を赤くして悠さん達に謝った。 「俺のせいで時間を変更にしてしまってすみません……」 そんな志音を見て、陸也の我儘は今に始まった事じゃないから気にすんな、人は沢山いた方が楽しいからね、と悠さんは笑って言った。 高坂先生…… 志音にベッタリで見てるこっちが恥ずかしくなってくる。 志音も学校以外の場所だと先生のこと「陸也さん」って名前で呼んでるんだね。 「あの……僕、少しだけどお弁当作ってきたんです。よかったら皆さんもどうぞ……」 なんだか初めましての人にこんなお弁当を広げるのは恥ずかしかったけど、勇気を出してお弁当を出したら、悠さんたちも喜んでくれたからほっとした。 おまけに悠さんもお弁当を作ってきたらしく、皆んなで食べようという事になり広げ始める。 悠さんのお弁当は僕なんかとは比べ物にならないくらい豪華なお弁当だった。 やっぱり恥ずかしい。 康介がクーラーボックスの中からお茶のペットボトルを出して僕に放ってくれる。 「竜は飲まないだろ? お茶の他にもジュースもあるから」 そう言いながら、缶ビールをプシュっと開ける康介。 「おい! そこ! 酒はダメだぞ! 俺の見えるところで飲むなよ!」 すかさず高坂先生が康介に注意するけど……見えないところならオッケーなの? 先生、可笑しいの。 ※未成年の飲酒表現がありますが、飲酒は成人してからです。未成年の飲酒を推奨しているわけではありませんのでご理解の上お読み下さい。

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