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衝突

「さっきお弁当作ってきたって言ってたけど……もしかしてこれって竜太君一人で全部作ったの?」 横から乗り出してきた悠さんが僕のお弁当を眺めながら聞いてきた。 「はい。悠さんの見ちゃうと下手くそで恥ずかしいんですけど」 ほんと、早く蓋して引っ込めたいくらいだよ。 「いや、全然! 下手くそなんかじゃないよ。高校生だよね? 偉いね。この卵焼きなんか絶妙な味付けだし。お母さんから教わったのかな? 凄いねぇ。俺これ好きだなあ 」 隣で康介達ももぐもぐしながら頷いてる。 「本当凄く上手だよ。そんなカッコいい顔してさ、料理も出来るなんて最高だね。竜太君モテるでしょ?」 矢継ぎ早に悠さんにそんな風に言われてしまい驚いてしまう。 僕がモテるわけがない…… 周さんや修斗さんならともかく、何を思ってそんな事を言うのか疑問だ。 「ちょっと……俺の竜太にちょっかい出さないでくださいよ」 急にムッとした周さんが僕の横に割り込んで座り、悠さんを睨んだ。 「もう、周君たら敵意むき出し! そんな心配しないでよ。何もしないよ。お喋りするくらいいいでしょう?」 そんな周さんに悠さんは笑った。 悠さんや元揮さん達も気兼ねなく話をしてくれるから、僕なんかでも話しやすくて楽しく過ごせる。気がついたら知らない女の人も混ざって一緒に飲んでいるから驚いた。 「いい男が集まってお手製の弁当食べて盛り上がってるから女が寄ってくるんだよ」 高坂先生はそう言って笑う。 太亮さんなんか、物凄く嬉しそうに女の人にお酌してまわってる…… 僕は知らない女の人達が修斗さんや康介に馴れ馴れしくしてるの、ちょっと嫌だと思ってしまう。 周さんは僕にピッタリとくっついて怖い顔をしているからか、僕らの周りには女の人は誰一人として近づいて来なかった。 少し前にも女の人が僕の隣に来て絡んできたのを、周さんが怖い顔をして追い払ってくれたんだ。 嬉しいけど…… 周さん、ちゃんと楽しめてるかな? 「ねえ、さっきから気になってたんだけど、周さん一人で抱えて食べてるそれ、何?」 志音が周さんを指差して聞いてきた。 そう、さっきから周さん、僕が用意した周さん用の卵焼き弁当を黙々と食べているから志音は不思議に思ったみたい。口に食べ物を頬張った周さんが、志音の言ったことに気が付いて顔を上げた。 「やらねえぞ! これは俺の卵焼きだ……竜太が特別に作ってくれたんだ」 そう言った周さんは弁当箱をお腹に抱えて隠すように一人で食べる。それを見た志音は小さな声で「子供みたい」と言ってクスクスと笑った。 「ねえ悪いんだけどさ、箸足りなくなっちゃって…… 誰かそこのコンビニで買ってきてくれないかな? ついでに飲み物も……」 高坂先生が僕らに向かってそう言ったので、僕は気晴らしに周さんを誘って買い出しに出ることにした。 「周さん、お花見楽しめてますか?」 僕はさっきから怖い顔をした周さんしか見てないのが気になったから聞いてみた。折角みんなで楽しく花見をしてるんだ。僕や周りに気を遣って周さんが楽しめていなかったら僕は嫌だ。 「ん? 楽しんでるよ。だって竜太と一緒に居られるし、弁当は美味いし、昼間っから飲めるし……あぁ、知らねぇ女どもがちょっと鬱陶しいけどな」 人混みを歩きながら、周さんは僕が人とぶつかりそうになると肩を抱き寄せて庇ってくれる。 いつものことだけどこれ、話しながら無意識にやってくれるんだもん。 ……キュンとくるよね。 「そうだここ。こっち行った方が近道なんだよ。人も少ないし、こっちから行くか 」 周さんに手を引かれ、公園の外れの方へと歩いていく。 ほんと周さんの言う通り、急に人が少なくなって……殆どいない。 「そこから公園の外に出られるし、道渡ればすぐコンビニ…… 」 「……!?」 大きな桜の木の陰から、急に誰かが飛び出してきて周さんにぶつかった。 「痛ってえな!……おい、大丈夫か?」 ぶつかってきた方の人が、反動でひっくり返ってる。 そういえば、僕も周さんと初めて会った時、廊下でぶつかって僕の方が吹っ飛ばされたっけ…… 「………… 」 ひっくり返った人は顔を伏せて尻もちをついたまま動かない。 「……あの、大丈夫ですか?」 僕はその人を助け起こそうと近づいて、ハッとした。 肩を震わせて立ち上がらないその人は、衣服が少し乱れていて…… ……泣いていた。

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