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来年は二人で
一瞬その様子に躊躇ったけど、気を取り直してもう一度声をかけた。
「大丈夫ですか? どこか痛いところとか……」
少し近づいて手を差し伸べようと屈んだら、突然立ち上がったその人は僕の肩を押しやり走って行ってしまった。
僕はその反動で尻もちをつく。
何にも無いところで転んだり、ちょっと押されただけでよろけたり……僕って本当に情けない。
「おいコラ! テメェ竜太に何してんだよ!」
周さんが怒って、走り去る彼を追いかけようと体の向きを変える。
「待って! 周さん! 僕は大丈夫だから。追いかけないで!」
凄い剣幕で勢いよく僕の方へ向き直ると、周さんは戻ってきてくれた。
「周さん……起こしてください」
僕は周さんに両手を差し出し、抱き起こしてもらった。
「すみません……ありがとうございます」
お尻についた汚れを手で払いながら僕は周さんにお礼を言う。
「何なんだよあいつ、竜太が助けてやろうとしてたのにムカつくな……」
「でもなんだか様子が変でしたし……あの人、泣いてた」
え? っていう顔をして僕の顔を見る周さん。
「竜太、よく顔見えたな……あいつ前髪伸びてて表情なんて俺見えなかったぞ……てかさ、思ったんだけど前の竜太に似てんな。黒髪でボサーって髪長えの」
自分の額のところで指をひらひらさせて、揶揄うような顔をしながら周さんが笑った。
「しかも俺とぶつかって吹っ飛ばされてんのも同じだな」
……ちょっとバカにされた感じ。
「笑わないでください。僕、別に似てませんから! 買い物行きます」
まだ笑ってる周さんを無視して、僕はひとりで歩き始めた。
慌てて周さんが追いかけてきてくれる。
「竜太、待って! 俺も一緒だろ? もう、怒っちゃった? ごめんね竜太」
慌てる周さんに僕はわざと知らんぷりを続けたら、後ろから腕を掴まれ抱きつかれてしまった。
ひゃぁ……
ドキドキする。
「ここ……外ですって……」
一気に顔が熱くなる。
「別に誰もいねえし……竜太が俺をおいてくからだろ?」
後ろから抱きしめるなんて反則だよ。
「周さん、意地悪しないでください」
名残惜しかったけど周さんの腕から逃れ、手をつないだ。
「なんだよ、意地悪して俺を置いてったのは竜太だろ?」
不貞腐れた顔をした周さんも可愛い……
「はい。ごめんね周さん」
僕が周さんに笑いかけると、周さんも「俺も笑ってごめんな。大好きだよ」と、そう言って僕の手を握り返してくれた。
思いがけない周さんとの甘いひと時に、さっきの彼の事はすっかり僕の頭から消えてしまっていた。
二人で割り箸と飲み物を買って、仲良くみんなの所へと戻る。
来た時は男だらけだったその場所は、男女入り乱れてこの辺りで一番の大所帯になっていた。
「………… 」
「あそこに戻んの……俺嫌だな」
周さんが溜息を吐いた。
僕も同感。
「でも、頼まれたコレ、届けないとね」
渋々僕らはみんなの所へ戻り、合流した。
近くにいた元揮さんに買ってきたものを手渡し、周さんと一緒にシートの端に座り飲み直す。
すぐに志音が横に来て愚痴り始めた。
「もう……女の酔っ払いって最悪だよ。超セクハラ!」
確かに、志音の服が乱れてる。
「どんだけ触られてたの?……てか先生は?」
僕の言葉に志音は更にムッとする。
「寝ちゃったんだよ。信じらんないよね! 俺と一緒に過ごしたいなんて言っといてさ、大人なのに情けない……」
視線の先を見てみると、向こう側の隅で悠さんの膝枕で眠っている先生の姿が見えた。
「え? あれはいいの? 悠さんの膝枕…… 」
僕ならあんなの見たら焼きもち妬いちゃう。
「あ、いいのいいの。さっき知らない女の人の膝枕で寝てたのを悠さんが気付いて変わってくれたんだよ。ふふ……でも悠さんと先生ってさ、親友同士でなんか雰囲気いいから、正直ちょっと妬けちゃうんだよね」
やっぱり志音でも焼きもち妬くんだ。
でも、そうは言っても悠さんに先生を任せていられるのは信頼し合って余裕があるからなんだろうな。
「悠さんもモデルさんばりにかっこいいもんね。志音でも焼きもち妬くんだね」
自分専用の卵焼き弁当が買い物に行ってる間になくなってしまって超絶不機嫌な周さんが、僕の発言に一睨みする。
「あ?……誰がカッコいいって?」
僕を睨みながら、周さんは大きな体を横にして僕の膝に頭を乗せた。
「ふふ……周さんが一番かっこいいですよ」
周さんに顔を寄せて小さな声でそう呟くと、満足そうな顔で周さんは目を瞑る。
「周さん、見かけによらず可愛いんだね……」
そんな様子を見ていた志音がクスクス笑った。
知らない女の人達がちょっと嫌だったけど、賑やかで楽しいお花見だった。僕の膝で眠ってる周さんの髪の毛を弄りながら、二人だけでもお花見したかったなぁ、なんてちょっと思った。
来年は二人で来られるかな?
来られるといいな。
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