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新入生オリエンテーション

新学期が始まり、新入生オリエンテーションのこの日から一週間、放課後は部活動見学に充てられる。 僕らの通う高校は運動部と文化部があるんだけど、部活をするかどうかは生徒の自由だ。この一週間で興味のある部活を見学して、入りたいところを決めたら正式に入部届けを顧問に提出する。 僕は中学の頃から美術部に所属している。 特に絵を描くのが好きというわけではなかったけど、中学の時は全員何かしらの部活に入部しなくてはいけなかったので、一人で活動の出来る美術部を選んだんだ。 でも先輩達に教えてもらいながら色んな絵を描くうちに楽しく思い始めて、高校でも僕は美術部に入部した。 高校では中学の時と違って好きなものを好きなだけ……そんなスタンスで活動させてもらえるから、気楽でいい。 部室の窓から外を眺めると、まだ真っ白で綺麗な真新しい体操着を着た一年生数人がグランドへと走っていく。 美術部の部室があるこの校舎は各教室のある第一校舎とは別の、生徒会室や職員室などのある第二校舎の一階にある。ちょうど窓の外はグランドへと続く通り道になってるので、部活動見学のある今日は少しだけ騒がしく感じた。 周さんも帰る時、よくここを通る。 窓越しに「帰ろうよ」とか「また明日な」とか、声をかけてくれるんだ。 最近修斗さんに教えてもらって知ったんだけど、周さんはわざわざ僕の部室に寄れるようにこっちから帰ってくれてるらしい。 なんか嬉しいな…… でも、今日は周さんアルバイトなんだって。授業が終わったらさっさと帰っちゃった。 ちょっと寂しいけどしょうがない。我慢我慢。 「あ、渡瀬君もこっち来て」 突然部長に呼ばれ振り返ると、入り口のところに数人の一年生が立っていて部長と話をしていた。 「じゃ、こっち入って……」 部長に促され、ぞろぞろと一年生が入ってくる。とりあえず空いてる席に座ってもらった。 僕が一年生の時はあまり美術部の見学はいなかったけど、今年は沢山いるんだな…… ざっと数えてみたら六人もいて驚く。 僕が見学した時は確か三人、でも入部を決めていた僕と違って他の二人はとりあえず暇つぶしに見学……って感じだったから、勿論入部はしなかった。 なんとなく見た限り、やっぱり冷やかしなんだろうなって感じの人ばかりだった。 いや、見た目で判断しちゃダメなんだけどね。 「いやぁ、こんなに見学に来てくれるなんて思ってなかったから嬉しいよ! この部活はみんな比較的自由に制作しているから、気楽に見てってね」 上機嫌な部長とは対照的にテンションの低い一年生。 なんか変なの…… そんな一年生の中で一人だけ、ちょっと気になる人がいた。 明らかに他の五人とは違うタイプ。 うん… どちらかといえば僕みたいなタイプだ。 とりあえず、その子は誰とも目を合わそうとしなかった。 こっち見るかな? なんて思いながらじっと見つめているとパッと目が合う。ちょっと嬉しくて何かを話そうと思ったけど、迷惑そうな顔をしてさっさと目をそらされてしまった。 でも彼はきっと美術部に興味があってここに来てくれたんだろうなって思えて嬉しかった。 「じゃぁ、各々作品を作ったりしてるから、自由に見学してくださいね。何か質問あれば遠慮なく聞いてください」 部長はそうみんなに伝えると、僕にも「作業に戻っていいよ」と笑顔で言った。 僕は日課にしている静物のデッサンをしていたので、また席について描き始める。 しばらくの間、ガヤガヤと一年生が見学していたけど、段々と静かになってきたので帰ったんだとわかった。 「………… 」 ふと気配を感じで振り返ると、さっきの大人しそうな一年生が僕の絵を見つめていた。 「あ……すみません。気が散りますよね」 遠慮気味にそう言うと、少し後ろに下がる。 「大丈夫だよ。残ってくれてたんだね。気にしないでどうぞ見ていってください」 見られている緊張感はあったものの、描き始めたらまた僕は絵に没頭してしまった。

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