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周の記念日計画
俺は春休みの間、バイトを増やしてまた金を貯めた。
それは竜太と一緒に行きたいところがあったから。
竜太に喜んでもらいたいから──
竜太が一生忘れられない思い出を作るには何をしたらいいか考えたんだ。そんな大袈裟な事じゃなくて、何がいいか考えて……まだ二人で行った事のない場所に決めたんだ。
実は春休み前に修斗に相談していた。
バイトに忙しい康介に構ってもらえずヒマしてる修斗と、ファーストフードで寄り道。
「え! いいなぁ それ! みんなで行こうぜ! でさ、みんなでかぶりものしてさ!うわぁ 楽しみ!」
去年みんなで遊園地に行ったのが楽しかったから、またみんなで行こうと一人盛り上がる修斗を俺は黙らせる。
みんなと一緒じゃ意味がないんだ。
「悪い、今回は特別な日だから竜太と二人で行きたいんだ……で何? かぶりもの?」
「ん……ほら、こういうの。なに? 周もしかして行った事ねぇの?」
修斗は携帯に入っている写真をペラペラと捲り、俺に見せてくれた。
楽しそうな笑顔を浮かべ、頭に耳付きカチューシャをつけている修斗の写真。
「これ、康介と行ったのか?」
俺が聞くと「ううん…」と修斗は首を振る。
「これ、康介に見せんなよ。焼きもち妬いて面倒くさくなるぞ」
修斗の事となるとすぐに自信をなくしていじける康介。康介が元気がねぇと、竜太まで心配して面倒くさくなるから困るんだ。
そうだな……と慌てて修斗はその写真を削除した。
「別にやましいわけじゃねえんだぞ。康介にいらん心配させたくねぇからな…… まだ康介と付き合う前に友達と行っただけなんだから」
修斗が弁解じみたように喋るけど別にそんなのどうでもいい。
「でも、こういう非日常的な場所で童心にかえれるのって楽しいよな!あ、予約が必要だけど食事しながらショーが見られたりもするレストランがあるよ。いい記念になると思う……てか、何? 特別な日だからって言ってなかった?」
「あ……うん。そう、特別なんだ……えっと、あれだ……記念日? みたいな」
相談しておきながら、ちょっと本当のことを言うのは恥ずかしい。そんな俺の気持ちなんてお構い無しに修斗は興味津々な顔を俺に向けた。
半分面白がってるのがわかってなんかムカつく。
「記念日って! へ? なんの? ……竜太君、誕生日じゃねぇよな? へ? なになに?」
何々うるせぇなぁ……
「竜太とさ、付き合い始めて……そろそろ一年になるからさ」
俺がそう呟くと、修斗が吹き出した。
「マジかよ! 周がそんな事言い出すとは思わなかったな! 付き合って一周年記念か。竜太君が言ってたの?」
「………… 」
改めて言われるとめちゃくちゃ恥ずかしい。
「んにゃ、竜太は多分そんなの気にしてないと思う。俺だって別に記念日なんて意識してるわけじゃないし……たまたまな、ふともうすぐ一年経つんだなって思ったから」
頬杖ついて修斗がニヤニヤしながら聞いている。
「もう!……らしくない事言って悪かったな!もういいよ」
「あ……ごめんごめんっ。周って本当に竜太君の事好きなんだなぁって思ってさ。でも竜太君、絶対喜ぶと思うよ」
修斗から色んな情報を聞いておいた。
待ち時間やオススメのお店、パレードの時の観覧場所とか……
家に帰ってからショーが見られるレストランの予約もバッチリしておいた。
こうして準備万端で待ちに待った今日を迎えたんだ。
思っていた通りの竜太の反応。
嬉しそうな竜太を見ていると俺も嬉しくなってくる。
ちょっと人が多くて、人混みの苦手な竜太の顔色が悪くなる事もあったけど、俺がついてるから大丈夫。問題ない。
お揃いのかぶり物をしてこの楽しい雰囲気、人の多さで普段より大胆になれる。知った奴だっているわけないし、男同士手を繋いだってどうって事ない。
竜太もいつも以上に可愛さ全開。そのせいか知らない女や男が竜太に声をかけようとする事が何度かあった。その都度俺が睨んで追いかえしていたから竜太は気づいてねえけどな。
食事を終えて、俺が予約を一ヶ月も前からしていたとわかった竜太が驚いている。
「なんで急にここに来ようって思ったんですか?」
不思議そうにそう聞く竜太に俺はちょっと答えるのを誤魔化した。
照れ臭いけど、パレードが始まってから話そうかと思って。
こんな俺と一緒にいてくれてありがとうって……
これからも一緒にいてくれって……
ちゃんと竜太に伝えるんだ。
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