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偶然の再会
「ちょっと待てよ。その子俺の連れなんだよね。なに勝手に連れてこうとしてんの?」
突然背後から声を掛けられる。
途端にチッと舌打ちが聞こえて、周さんを探してくれると言っていた二人はさっさとどこかへ行ってしまった。
僕はまた心細さに襲われる。
足が痛い……
「竜太君……だよね? どうした? 大丈夫か?」
周さんじゃないけど、この聞き覚えのある声。
でもまさか──
不安感は無くなり、この聞き覚えのある声に少しだけホッとする。そして恐る恐る振り返ると、やっぱりそこに立っていたのは僕のよく知った人物だった。
「え? え? 何でこんな所に? ……恭介 さん、お久しぶりです!」
僕の後ろに凛と佇むスラッとしたシルエット。
見間違うはずもない。
恭介さんは誰もが知る俳優兼、モデルさんでもある。
メガネと帽子をかぶってはいるけど、僕が見た限りそのオーラは全く隠せていなかった。
なんで僕がこんな凄い人と知り合いかというと、モデルの志音を通じて紹介してもらったんだ。周さんと以前買い物をしてる時に二人と偶然出会って、仕事で顔見知りだった志音が紹介してくれた経緯があった。
同年代だという事もあって、その日オフだった恭介さんも一緒に買い物を楽しみ、その後恭介さんの恋人だという春馬 君も紹介してもらい、それ以来二人とは仲良くしてもらっている。
「……恭介さんなんで?」
「なんでも何も、プライベートで遊びに来たんだけど……」
芸能人でもこんな人がいっぱいのところに遊びに来るんだ。
メガネと帽子があったって、どこからどう見ても周防恭介そのまんま。いつ周りにバレるかと思うと落ち着かなかった。
「あ……の、大丈夫なんですか?」
僕は間の抜けた質問をしてしまったけど、恭介さんは理解してくれたらしく小さく「うん」と頷いてくれた。
「大丈夫だよ。意外にね、堂々としてればわからないもんなんだって」
楽しそうな恭介さん。
でも近くにいた女の子がヒソヒソとこっちを見て話してるのが見えた。
「あの〜、もしかして周防恭介さんじゃないですかぁ?」
ほら見ろやっぱり……
心配していた通り、キャピキャピしながら女の子が近づいてきた。
「ああ、よく言われるんだよね。似てるんだよ。ごめんね、本人じゃなくて」
カッコいい恭介スマイルを浮かべて女の子達に話す恭介さん。
それでも「写真撮らせてください」と引き下がらない彼女達に、ちょっと難しい顔を見せた。
「やめてよ、写真なんか撮ってたら他の人も勘違いして近づいてくるからさ、写真はごめんなさい」
そう言って丁寧に断ると、やっと諦めたのかその女の子達は去っていった。
「……バレバレじゃないですか」
僕がため息を吐きながらそう言うと恭介さんは くくっと笑った。
「こんなもんだ。でもプライベートだし」
………。
「プライベートでおひとりで来たんですか?」
小さな声で僕がそう聞くと、ぶはっと恭介さんは吹き出した。
「一人じゃないって! 寂しいな! どんだけだよ……春馬も一緒だよ。場所取って向こうにいる。俺は喉乾いたから飲みもん買いに来たんだ」
春馬君もいるんだ。
「でも、ほんとどうしたの? 周も一緒なんだろ? なんで竜太君一人でいるんだよ」
僕は周さんとはぐれてしまった事、電話をしても繋がらない事を恭介さんに説明をした。
「何やってんだよ。はぐれたんなら電話ちゃんと気づけよな。しょうがねぇ奴……」
そう言いながら恭介さんも周さんに電話をしてくれたけど、やっぱり周さんは電話に出ることはなかった。
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