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男三人ケーキタイム
僕らは三人で並んで歩き、他愛ない話をしながらケーキ屋へと向かう。
僕の隣を歩く入江君は居心地が悪そうな顔をしていた。
それもそうだよね……いきなりだったから。
それでも修斗さんは僕に話すのと同じように入江君にも気安く話すから、初めは警戒していた様子の入江君も段々とお喋りになっていった。
「修斗さんここです! よかった。空いてる」
店に到着すると言い出しっぺの僕が先頭を切って店内に入り、奥のテーブルの空きを確認した。
この店はケースの中のケーキを選んで、奥のテーブルで食べられるようになっている。買ったものを店内で食べていく場合、コーヒーか紅茶を一杯サービスしてくれるんだ。
これは下手に喫茶店でスイーツ食べるよりも安上がりでいいかも。
僕らは三人でケースの前に並び、ケーキを物色する。
「俺はコレ! 入江君は決まった?」
修斗さんは即決でチョコレートのケーキを選ぶ。
「いや……マジでケーキ食うんですか? ……これ何かの罰ゲームですか?」
不審がる入江君に笑ってしまった。だって大真面目な顔をして罰ゲームって……
「やだなぁ、男でもケーキ食べたっていいじゃん。なぁ? 竜太君。俺らスイーツ好きなんだもん。よくニ人で甘いもん食べいくよ」
修斗さんもケラケラと笑った。
「入江君、ケーキ買わないと飲み物貰えないよ」
僕がそう言うと「なんで俺ついてきちゃったんだろう…」と入江君が小さな声で呟いた。
修斗さんはチョコレートのケーキ。僕は散々悩んで、苺のタルト。今度周さんと来た時は、悩んだそっちのブルーベリーのチーズケーキを食べてみよう。そして入江君はシンプルなショートケーキ。それぞれコーヒーと紅茶を貰い、奥のテーブルへ座った。
不思議そうな顔をした入江君に見つめられながら、僕と修斗さんはお互いのケーキをひと口ずつ交換もして味わった。
「あの……やっぱり俺、信じらんない。女子かよ……」
そう呟く入江君に修斗さんは口を尖らす。
「入江君ってさぁ、竜太君みたいに大人しそうな子かと思ったけど、結構強気で生意気だよね」
それを聞いて慌てて入江君が謝った。
「いや、俺は入江君みたいな子、好きだよ。謝んなくていいって、気楽にして」
小さくなってケーキを頬張る入江君がちょっと可愛くて可笑しかった。
「あの〜、そのケーキ美味しいですか?」
急に隣のテーブルに座っていた女の子ニ人組に声をかけられる。
「………… 」
また逆ナンかな?
修斗さんと一緒にいるとこういった事がしょっ中ある。
「美味しいよ。君達も同じの食べてんじゃん。味わかんないの?」
修斗さんが笑いながらその子達の顔も見ないで話すのを、僕と入江君は黙って見つめる。
「ですよね……あの、この後一緒に遊びに行きませんか?」
……やっぱり。女の子ニ人は上目遣いでわざとらしく僕らを見る。
嫌な感じ。
でも、コーヒーを啜ってにこにこしながら顔を上げた修斗さんはハッキリと言った。
「なんで? 嫌だし。君達と一緒に遊んでも楽しくなさそうだからいい。バイバイ」
顔の横で手のひらをヒラヒラと振る修斗さん。
「………… 」
女の子ニ人組はあからさまにムッとした顔を見せ、プリプリしながら店を出て行ってしまった。
「……すげぇ、笑顔でキッツい言い方」
……確かに。
修斗さん、前はこういう時でも結構ノリノリでお喋りをしていたと思う。でも少しのお喋りはするけど逆ナンされてついてく事は僕が知る限り一度もない。
それでもこんなにキツい言い方するのは初めて見たな。
「だってさ、ハッキリ断らないって康介が怒って拗ねるんだもん。だからこれからは断る時はちゃんと断るって決めたの」
あぁ、なるほどね。不機嫌顔の康介が目に浮かんだ。
修斗さんの言った言葉に、入江君は一人首を傾げた。
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