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入江君

今日は学校が終わって周さんと一緒── 二人で行きそびれていたケーキ屋にいる。 僕はブルーベリーのチーズケーキを選び紅茶をもらう。周さんは抹茶のシフォンケーキとコーヒー。店の一番奥のテーブルで、僕は周さんが半分残したシフォンケーキを頬張っている。 幸せなひととき…… 今日はこの後、周さん達のスタジオ練習を見に行くんだ。 一年の時はほとんど行かなかったけど、前に陽介さんに連れて行ってもらったのをきっかけに僕もちょいちょいお邪魔するようになった。 ……とは言っても、邪魔にならないようにスタジオ内にはなるべく入らないで休憩所で待ってるんだけどね。 それでも少しでも周さんと一緒にいられるのが嬉しかった。 「竜太、よく食うな……その抹茶ケーキ甘すぎねぇか?」 ブルーベリーのチーズケーキと抹茶シフォンを食べ比べるようにして頬張る僕を、呆れたように眺めていた周さんが聞いてきた。 「あぁ、確かに少し甘いかも……でも美味しいですよ」 僕はそう言いながら食べ続ける。周さんと違って僕は甘かろうが控えめだろうが、どちらも美味しく頂けるのだから関係ない。 僕らは食べ終わってから少しお喋りをして、スタジオへ向かった。 少し歩くと前方に見覚えのある人影がある。 「あ、入江君だ……」 気付いた僕がポツリと呟くと、周さんはスタスタと入江君に向かって歩き出す。 「周さん……待って」 急に早歩きで行っちゃうもんだから、僕は慌てて追いかけた。 「おいっ! お前、待てよ!」 周さんが乱暴に入江君に声をかけた。 ビクッと怯えたように振り返った入江君は、周さんの顔を見てホッとしたような表情を見せ歩くのをやめた。 「あ……あの、この前は助けてくれてありがとうございました」 消え入りそうな声で、入江君が周さんにお礼を言う。やっぱり入江君も周さんだとわかってたんだ。 「おぅ、お前大丈夫なのか? なんか竜太も修斗も心配してるし、何かあんならちゃんと言えよ」 周さんはストレートにそう言うもんだから、入江君は目をパチクリして不思議な顔をしている。 「あれ、友達なのか?」 でも周さんのこのひと言で、入江君の表情が一変した。 「友達なんかじゃありません!」 怒ってるような、泣き顏のような……とても複雑な表情。 「………… 」 僕が見た時は友達だって言ってたけど、きっと周さんが助けた時の人は友達じゃない、別人だったんだな。 「入江君、今帰り?」 僕が入江君に聞いてみると、なんかそわそわと目を逸らしてから「はい…」と小さく返事をした。 やっぱり、なんだかおかしい…… 周さんはそれを聞いて「そっか、じゃぁ気をつけて帰れよ」なんて言って手を振り行こうとしたら、入江君は急に不安そうな顔を見せる。 ……でも一瞬だけ。すぐに笑顔を見せ、ぺこりと頭を下げた。

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