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なんとかしてあげたい

「周さん! ちょっと待って…… 」 スタスタと歩き出した周さんに向かって僕は声をかける。なんだよ……と言わんばかりの顔で周さんが振り返ったけど、僕は入江君にもう一度声をかけてみた。 「ねえ、今からお家に帰るの?」 入江君は目を合わせず、黙ったまま返事をしてくれない。 「………… 」 少し離れたところで周さんが「なんだよ! 行くぞ。スタジオ遅れちまう 」と言って不満そうな顔をする。 「あのね……入江君が今からどこに行くかは知らないけど、行きたくないなら無理に行かなくていいんだよ。僕、今から周さん達のスタジオ練習を見に行くんだけど、よかったら一緒に来る?」 「………… 」 入江君の顔を見て、本当は家に帰るんじゃないってわかってしまった。 一瞬だけ見せた不安そうな顔。 僕はどうしても入江君を放っておけなかったんだ。 少し沈黙があってから、入江君が口を開いた。 「……いいんですか?」 よかった! やっぱり何かあったんだ。 「もちろん! 一緒に行こう」 僕は入江君が少しだけでも心を開いてくれたのが嬉しかった。 周さん達が練習している間、事情がわかればいいな……って思う。 何かわからないけど、助けてあげたい。 一歩先を行く周さんの後を入江君と二人でついて歩く。 「なんだよ……お前も来んの?」 振り返った周さんが無愛想な顔で呟いた。 「……周さんあんな風だけどね、気にしなくていいからね」 さっきから黙ってしまってる入江君に、僕は小声でそう言った。 いつものスタジオに到着すると、既に靖史さんと修斗さんが来ていた。 「おっ、今日は竜太君も来てる」 靖史さんが笑顔で僕に手を振ってくれる。 「お久しぶりです」 挨拶をすると、靖史さんは不思議そうな顔で入江君を見た。 「誰?」 「あ、僕と同じ美術部の一年生なんです。入江君……途中で会ったんで連れて来ちゃいました」 「おぅ、そっか。オッケー……入江君よろしくな。俺は靖史。そっちは修斗…… 」 靖史さんに紹介された修斗さんはにっこりと手を振る。 「入江君とはもう会ってるもんね」 「なんだ、そうなのか…… 」 ペコっと頭を下げる入江君。 周さんはそんな入江君の横を通り過ぎ僕にギュッとハグをした。 「終わったら飯行こうな。待たせてゴメンな」 僕は好きで周さんの練習について来てるのに、いつもこうやって待たせて申し訳ないって顔をするんだ。 「はい。好きで待ってるんだから、いつもそんな風に謝らなくたっていいですよ?」 そう言って周さんに笑いかけると、僕は入江君の腕をとりスタジオを出て休憩所へ行った。 何故だかぽかんとしている入江君。 「ずっと中にいると邪魔になっちゃうからね…… 」 自動販売機で飲み物を買い、ソファに腰掛けると入江君がまじまじと僕を見る。 「いや……そうじゃなくって、その……あの先輩と仲良すぎじゃね?……って思って。普通あんな抱きついたりしないな〜って思ったから」 「………… 」 あ、そうだよね。 まわりのみんなは僕と周さんの関係を知ってるから、つい僕もいつもの調子で抱きしめ返しちゃった。 「前からちょっと思ってたけど、距離感とかさ……まるで恋人同士みたいだし……」

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