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迷惑だから

「修斗さんも心配してるんだよ。勿論僕だって。入江君、何か悩んでるんじゃないの?」 僕は入江君の顔をジッと見つめる。 「……です」 「え? なに?」 顔を逸らし、小さな声で言うもんだから何を言ったのか全く聞き取れなかった。でも聞き返すと今度は僕の方に顔を向け、不安そうな表情を見せはっきりとこう言った。 「俺が我慢すればいいだけの話なんです」 「………… 」 我慢すればって…… 我慢ならなくなったから、今ここにいるんじゃないのかな? さっきは何処へ行こうとしていたの? 行きたくなかったから僕についてきたんでしょう? 「我慢って……嫌な事は我慢しちゃダメだよ! 僕じゃ助けにならない? 話したくない? ……辛そうなんだよ。お花見の時だって……入江君泣いてた」 そうだよ。 あの時、衣服も乱れてたし汚れて……何より悲しい顔をして泣いていたんだ。 もうここまで来たら、僕は入江君を放ってはおけないよ。 「……どうしても話せない? 僕じゃ役に立たないかな?」 真剣に問いかけてみると、入江君は俯いて小さく首を振った。 「ありがとうございます……でも言えない。言ったら絶対迷惑かける……」 「そんな事ないよ。話だけでも聞かせてよ」 僕がいくら言っても入江君は首を振るばかりで、それ以上は何も話してはくれなかった。 ちょうどこのタイミングで、周さん達の練習が終わったらしくみんながガヤガヤとスタジオから出てきた。 「竜太、お待たせ」 一目散に僕のところへ来てくれる周さんを笑顔で迎える。 「………… 」 僕の前にきた周さんがジッと顔を覗き込んできた。 「……何ですか?」 不意に周さんの手が僕の頬に触れるから、ドキッとしてしまった。 「竜太、泣いた?」 うわっ…… 何でわかっちゃうんだろう。 「泣いてませんよ」 周さんは「ふぅん」と言いながら入江君の方を見て睨んでる。 「ま……いいや、ほら行くぞ。飯! 俺腹減った」 そう言って周さんは入江君の肩を叩いた。 「え? お、俺もですか?」 驚いてオロオロしている入江君に向かって「はぁ? 当たり前だろ」と周さんが言い放つ。きっと周さんは初めから入江君も食事に誘うつもりでいたんだ。 「飯? 俺も一緒に行く! 靖史さんは? どうします?」 横で見ていた修斗さんも、楽しそうにそう言った。 靖史さんは彼女との約束があるらしく先に帰ってしまったから、僕らは四人でいつものファミレスに行く事にした。 途中、修斗さんは康介に電話をかける。康介ももうすぐバイトが終わるから今から飛んでくるらしい。 「……なんでまた。俺も一緒に……」 何だかんだブツブツ言いながらも、入江君はちゃんと僕らについてきてくれた。 「さて……と、何食うかな」 席に座るなり、修斗さんが楽しそうにメニューを開く。 「康介はね、カレーだって。俺も味見したいからカレーは大盛りにしといて……っと、俺はグラタン! あとチョコレートケーキ!」 電話で前もって聞いていたのか、テキパキと康介の分も注文している。 周さんはハンバーグ、僕はサンドイッチを頼んだ。 「入江君は?」 僕が聞くと、小さく首を振り飲み物だけでいいと言った。 「え? お腹すいてないの?」 不思議に思い聞いてみると、 「……最近、ものを食べると吐き気がするんです」 入江君は俯いたままそう言った。

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