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入江君の悩み

僕は次の日すぐに周さんに相談をすることにした。 今僕は周さんと二人で授業をサボって屋上にいる。 ……僕と周さん、二人っきり。 「別に昼休みとかでよかったのに……」 授業をサボる事なんか滅多にしない僕が、こんな時間に周さんを屋上に誘ったのが不思議だったみたい。 「でも……なんか話しにくい内容だったし、それに周さんと二人になりたかったから」 そう言って、僕はちょっとだけ周さんに寄り添って体を密着させた。 そんな僕の態度に嬉しそうな顔をした周さんが、僕の顎を掴みキスをしてくる。 「ん……んっ、 ダメですよ。ここ学校!」 周さんにそのまま押し倒されそうになったので慌てて押し返した。 「……ダメ?」 もう。そんな可愛く上目遣いされてもダメだってば。 「ダメです。だって僕、周さんに入江君の事で相談したくてここに呼んだんですよ」 そう言うと「あぁそうだった!」と周さんが真面目な顔をした。 全く……この人ってば。 「なに? 昨日の夜 連絡あったんだろ? どんな内容だったんだ?」 何からどう話せばいいんだろう。ちょっと言いにくい内容だから躊躇ってしまう。 「竜太……?」 周さんは心配そうに僕の顔を覗き込む。 「あ……すみません。なんか言いにくくて。入江君、中三の時から何か弱みを握られてて……その……特定の人達に体の関係を迫られてるみたいなんです。反抗すれば友達に矛先を向けるとか……写真をバラまくとか脅されてるみたいで」 黙って聞いてくれていた周さんが溜息を吐いた。 「……まあ、よくある話だな」 「え?」 こんな酷い事が「よくある事」なの? 僕は周さんが吐いた言葉が信じられなかった。 冗談じゃない! 「よくある事なんかじゃないです! おかしいですよ! 相手は同じ男だって言うし…… 」 頭にきて思わず声を荒らげてしまった。あの時入江君が僕に見せた嫌悪の表情を思い出す。 「入江君……親友の直樹君の事が心配で、自分が我慢すればいいだけだから、なんて言うんです。好きでもない人と……ましてや男相手にそんな事しなくちゃいけないなんて…… 」 そんなの……僕なら絶対耐えられない。 「……竜太? 大丈夫か?」 周さんが肩を抱いてくれ、我慢できなくて溢してしまった涙を拭ってくれる。 「よくある事なんて言ってごめんな……そうだよな。相手は誰だか聞いたのか?」 「………… 」 「修斗がよ、西中出身の一年や二年なんかをあたっててガラの悪い奴とかタチ悪そうな奴とか聞いてっから。入江はもうそいつらに関わりたくねぇんだろ? それに男相手にそんな事をされてんだ……まわりにも知られたくねぇだろ……」 僕は黙って頷いた。 「……腹が立って、悔しくって……恥ずかしくって………死にたくなるって言ってた……」 入江君の気持ちを考えるとまた涙が出てくる。 周さんは慌ててそんな僕を抱きしめてくれた。 「とにかくだ、竜太はあんまりあいつに関わるな……」 「え……?なんで」 周さんは僕の頬を両手で挟み、ちょっと顔を近付け僕を睨む。 「なんでじゃねぇよ。竜太が変に目をつけられちまったらたまんねえから。俺らに任せろ。くれぐれも気をつけろよ」 「………… 」 抱きしめてくれる周さんに僕もギュッとしがみついた。 「大丈夫です。気をつけますね 」 そう言って、僕は周さんの頬にキスをした。 「あ! そうだ……周さん、今度夕ご飯うちで食べませんか? 今父さんが帰ってきてるんです。周さんの事、父さんにも紹介しておきたいなって思って……」 周さんに話せて安心したおかげでもうひとつ大事なことを思い出した。 父さんのいる今週中に周さんの予定が合えばいいんだけど…… 一瞬キョトンとした周さんだったけど、急に目を丸くしてバタバタと慌て始めた。 「え! お父さんって……英太さん?? え? 紹介って……俺、心の準備が……えっ……と、何て言ったらいいんだ?」 周さんのあまりの慌てようにちょっと笑ってしまった。何で心の準備が必要なんだろう。 「周さん、別にそんな深く考えないでください。母さんは周さんの事をもう家族みたいなものだからって言ってるのに、父さんだけ周さんの事を知らないのもおかしいでしょ? だから紹介しておきたかったんです。特別に親しくしてもらってる先輩だって紹介しますから……別に恋人ですって言ってくださいって事じゃないです」 ……なんだか自分で言ってて凄い恥ずかしくなってきちゃった。 「いいのか? 俺、親父さんに本当のこと言ったって構わないんだぞ?」 「……はい」 周さんはそう言ってくれるけど…… 父さんだってきっと母さんみたいに理解してくれる。そう思っていてもやっぱり少し怖いんだ。 思わずカミングアウトしてしまった時の入江君の表情を思い浮かべる。 そう、理解できないって思う人だっているんだ。 もしかしたら父さんを傷つけてしまうかもしれない…… ……それに周さんも。 僕だって胸を張って周さんの事を愛してるんだって伝えたい。 けど、それは今じゃなくてもいいよね?

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