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俺に任せろ
その日の部活動の時間──
入江君はちゃんと来て、文化祭に展示する予定の作品作りに取り掛かっていた。
普段と変わらず、黙々と作業をしている。
いつもお喋りに忙しい工藤君も何だか静かに作業をしていた。
さっき周さんに話した事を入江君に伝えようと彼の横に腰掛けると、僕に気がついた入江君が手を止め顔を上げた。
「さっき周さんには話しておいたから。俺に任せろって言ってた……」
小さな声でそう言うと、不安そうな顔を見せる。
「任せろって……どうすんだよ」
俯きブツブツと言う入江君。
「………… 」
周さんには、任せろって事と入江君に関わるなって事しか言われてないから、具体的に何をするのかは聞いてない。
僕が返事に困っているとちょうど窓の外に周さんが訪ねてきた。
「おぅ! 入江よ、俺に携帯教えとけ。俺のも教えとくからよ、また奴らから連絡あったら無視して俺に連絡しろ」
ちょっと怖い顔の周さんが入江君に携帯を見せる。
言われるがまま、入江君が周さんと連絡先の交換をしていると、横から今まで静かだった工藤君が顔を出した。
「ちょっと! 橘先輩! 俺も! 俺にも教えて!」
慌ててポケットから携帯を取り出す。
「はあ? 嫌だよ。何で俺がお前に連絡先教えなきゃなんねーんだ?」
周さんに冷たくそう言われ、工藤君は思いっきり頭を仰け反らせて嘆いた。
「なんだよ〜! ずりぃよ〜! それに橘先輩意地悪! ……俺にも教えてくれたっていいじゃんか」
わざとらしく泣き真似をしながら工藤君は自分の作業中の机に戻った。
「……全く、あいついつもうるせぇな。まぁいっか。入江、今日は竜太じゃなくてあいつと帰れよ。とにかくもう一人になんなよ。何かあればすぐ俺か修斗に連絡しろ。竜太は俺と一緒に帰るぞ」
捲し立てるようにそう言うと、僕の方を見てにこっと笑う。
「俺今日バイトあんだよ。竜太もう帰れる?」
ちょっと急いでるように見えたので、僕は慌てて帰る支度をした。
「すぐ行きます! ……待っててください」
周さんは僕がすぐに帰れるのがわかると「下駄箱のところで待ってる」と言い行ってしまった。
「じゃぁ、入江君と工藤君……お先にね」
僕は一年生二人に戸締り等を頼み、部室を出る。そして僕を待っててくれている周さんのもとへと急いだ。
下駄箱のところに佇んでる周さん。
誰かと電話してるみたい……
さっきからちょっと怖い顔をしている。
「周さん……お待たせしました」
電話が終わったのを見計らって周さんのそばに行き声をかけると、僅かだけど周さんの目が泳いだ。
あ……なんか嫌な感じだ。
周さんが隠し事をしている時、こういう表情をするのを思い出す。
「ごめんな、ちょっと待って。入江から相手の名前とか詳しく聞いてねぇよな? 一応……確認……」
そう言って何処かにメールを打つ周さんを少し待ってから、僕はまた周さんに家まで送ってもらった。
帰り道、周さんに今週のバイトの予定を確認する。
ちょうど明後日はバイトが入ってないらしく、うちで夕食を一緒にする約束ができた。
よかった……
楽しみだな。
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