68 / 377

直樹の思い

ケーキを食べ終えると、チラッと入江君の方を見てから直樹君が話し出した。 「祐飛、俺のせいで酷い目にあってるんですよ……聞いてると思いますけど。もうね、俺のために祐飛が痛い思いすんの嫌なんです。最近は怪我もなくなってきたからやられてないって思ってたのに……」 直樹君、半分泣きそうな顔をしてる。 そうだよね、自分のために嫌な思いさせちゃってるの辛いよね。 「うん……そうだよね。怪我させられるだけならともかく、体……」 「ちょっと? 渡瀬先輩は余計な事言わないで!」 急に入江君に口元を押さえられて、小声でそう言われちょっと驚く。 なに? あ……もしかして、性的嫌がらせを受けてる事は直樹君は知らないの? 「なんか俺に内緒で奴らに会ってるみたいだし。俺はいくら殴られたって構わないんだ……なのに祐飛は自分ばっかり……」 僕が言いかけたことに気がつかなかったのか、俯いたまま直樹君は話を続けた。 「だから、今度呼び出し来たら俺も一緒に行くって言ってるのに、絶対ダメだって聞かねえんだもん……」 「いいんだよ! 直樹は絶対関わるな。もう会ってねえし、お前の勘違いだって…… 」 半分キレ気味になってしまっている入江君が直樹君を睨む。 「そんな事ないだろ? お前のその手首の痣なんだよ! また会ったんだろ? なんで嘘つくんだよ。俺……嫌なんだってば……祐飛が傷つくの、もう見たくない……」 「この痣は自分でぶつけたんだ! 直樹のせいじゃないってば。俺は傷ついてなんかないから!」 どうしよう…… 埒があかない。 二人のやり取りを、残していたモンブランの栗をフォークで突っつきながら康介が眺めてる。 「……康介 」 僕が康介に助けを求めるように視線を送ると、栗をパクッと口に放り込み康介も話し出した。 「……あのな、直樹君の気持ちもわかるけど、そこにいる祐飛は直樹君を助けたんだろ? せっかく助けたのになんでまた直樹君が首を突っ込んでくんだよ。祐飛がせっかく助けたのに意味ねえじゃんか。祐飛は祐飛で、もう呼び出しきても行かなくていいから。周さんや修斗さんが助けるって言ったんだろ? なら大丈夫だよ」 「………… 」 「俺だって竜だっているんだ。……祐飛、もう奴らのとこには行くなよ」 もぐもぐと栗を頬張り、真面目な顔で康介が言うと直樹君も入江君も静かに頷いた。 ……康介だって修斗さんの事が心配でしょうがないくせに。 そうして入江君と直樹君は、僕らと少しお喋りをしてから帰っていった。 「康介、周さんと修斗さん、なんとかするって言うけどさ……また喧嘩とかしちゃうのかな? 僕、嫌だな。心配だよ」 康介は目線だけこっちに向けて難しい顔をする。 「………… 」 「……康介?」 康介は何かを言いたそうな表情を浮かべ、少し考えてから話し出した。 「それな……祐飛に手を出してる奴らの裏にも誰か絡んでるみたいでさ。どうやら周さんも修斗さんも知った奴みたいなんだよね。だから話しつけてくるから大丈夫だって修斗さんが……」 そういえば、周さんと修斗さんも西中の学区じゃないかな。 なんだろう、不安が過る…… 「それにさ、俺も修斗さんに祐飛達とは絶対関わるなって念を押されたんだよね。竜ならともかく。なんなんだろうな…… 」 康介までそんな不安そうな顔しないでよ。 大丈夫だよね? 周さん。

ともだちにシェアしよう!