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守りたい

中学に入ってからもクラスが違っていたのもあってあまり直樹とは関わる事がなかった。俺は新しくできた友達と楽しくやっていたんだ。 直樹とは、登下校で顔を合わせば挨拶をする程度の仲のまま…… 二回ほど「話があるから」と帰りに声をかけられ呼び出された事があった。 でも俺は行かなかった── 何を言われるのかが怖かった。 直樹に対して恋愛感情は持てないし、そういった事を言われたら俺はなんて答えたらいいのかわからなかったから…… 俺は直樹から逃げたんだ。 あの時直樹が何を言いたかったのかなんてわからなかったはずなのに、俺は勝手に色々と考えてしまって、また直樹から逃げたんだ。 二度目の呼び出しから数日後の昼休み、俺は保健委員の仕事で保健室にいた。 保健医が席を外し、俺一人になったところで直樹のクラスの奴が入ってきたんだ。クラスも違うし、知った奴じゃなかったから「サボらせろ」と言われて奥のベッドへ向かったその二人にも構う事もなく、俺は仕事を淡々とこなしていた。 いくらカーテンを閉めたって布一枚隔てただけだから、二人の会話は俺に筒抜けだった。 「……面白いくらい言いなりだよな」 「よっぽど知られるのが怖いんだろうよ」 「あいつ女子にも人気あるし、気にくわなかったからラッキー」 「まさか本当にホモだとは思わなかったよ。おまけに好きな奴もいるとか……ありえねえ、相手は男って事だろ?」 こそこそと、楽しそうに話す二人の会話が嫌でも耳に入ってくる。 「なかなか白状しねえんだもん、相手誰なんだよ。それもわかればもっと面白いのに…… 」 「ま、今も言いなりだしいいんじゃね? そのうちわかるって。で、今日も行くんだろ?」 「おう、いつもの商店でエロ本万引きさせる。あとで直樹呼び出しといて。航輝さんも直樹に会ってみたいって言ってたし……」 耳を疑った。 胸糞悪い話してると思って聞き流そうとしていたけど、最後に言った名前にハッとさせられる。 どういう事だ? ちょうどその時保健医が戻ってきて、ベッドにいる二人はサボりだとバレてすぐに保健室を追い出された。俺も仕事を終えたからその後を追うようにして教室に戻った。 直樹…… 何やってんだ? 今日も呼び出すって言っていた。 俺はあれだけ直樹の事を避けてたくせに、やっぱり気になってしまうし心配だから、どうしても放っておく事ができなかった。 放課後すぐに直樹の教室に向かった。 思った通り、保健室にいた二人組に挟まれて直樹は教室を出るところだった。 明らかに動揺している顔で俺の事を見る直樹の手を掴み、自分の方へ引き寄せる。二人に「今日は直樹と約束あるから」と言って俺は強引に連れ出した。 後ろで二人が何か喚いていたけど俺が一睨みしたら静かになった。そのまま気にせず直樹と二人で帰った。 なんで? なんでだよ! 直樹はひたすら俺にそう言いながら、俺に手を引かれついてくる。 俺の家までくると、諦めたのか静かになった直樹……何も言わないから直樹を自分の部屋に入れた。 俺の部屋に入ってからもしばらく黙りこんでたけど、結局その日に俺は直樹に告白をされた。 ボロボロと大粒の涙を落としながら、直樹は俺の事が好きでごめんってただただ謝っていた。 あの二人の口から俺に自分の事がバレてしまうくらいなら、自分からバラしてしまった方がいいと思って俺に何度も話そうとしていたらしい…… そうだったんだ。 それなのに俺は直樹から逃げていた。 俺の方こそごめん…… 直樹の気持ちには答えられないけど、直樹が大事な友達だって事には変わらない。 ……今更だけど、わかったんだ。 一人で悩んで、最愛に思う人間に避けられ……その事で脅されて、いいように使われて…… どんなに辛かったかと考えたら、なんか俺まで泣けてきてしまった。 直樹はそんな俺を見て「なんで祐飛が泣くんだよ」と言って笑ったっけ。 その笑顔を見て、なぜだか俺はますます涙が止まらなくなったんだ。 ずっと辛かったくせに…… そんな顔して笑うなよ。 直樹の思いに応える事はできないけど、こんな俺を好きだと言ってくれる直樹を俺が守ってやんなきゃって、この時心に決めたんだ。

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