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日常の変化

直樹から詳しく話を聞いた。 聞くと本当に些細な事からだった── クラスの奴らと女の話をしていた時に直樹がつまらなそうにしてたのを、揶揄いのつもりで「男が好きなんじゃねえの?」と言われた事で直樹は思いっきり動揺してしまったらしい。他の奴らはその場でおさまったけど、あの二人だけはしつこく「本当のところはどうなんだ」と聞いてきたらしい。 ……友達のふりをして。 「悩んでるんだろ?」 なんて優しく言われ、直樹はその時本当に悩んでいたから二人に縋ってしまったんだ。 直樹の決死の覚悟の告白。 それなのに、それをネタに「バラされたくなかったら俺たちの言う事を聞け」と言われるようになった。断ったら暴力も振るわれた。 やっぱり周りに知られたくないから、直樹は嫌々ながらも二人に付き合い万引きなんかをするようになったらしい。 話を聞いて腹が立った俺は、直樹には内緒ですぐ次の日二人に会った。 直樹には、俺が話しをつけたからもう関わるなと言って念を押した。 正義感からというのもあったけど、やっぱり親友の直樹が辛い目にあってるのを黙って見てる事なんて出来ない。でも話をすればわかってもらえると思ってた俺は甘かったんだと思う。 放課後二人と話をしたけど、奴らを逆撫でするだけだった。誰もいない教室で二人相手に喧嘩もした。ここまでやったら俺はもう引き下がれなかった。 それでも直樹を連れて行く予定だったある人のところへ俺を代わりに連れて行くというのを条件に、二人は直樹から手を引くと言ってくれた。 そしてここの卒業生だという男のアパートへ俺は連れて行かれた。 アパートに着くと、そこには俺よりもだいぶ歳上であろう男が二人…… 同じ顔、鋭い目つき。 すぐに俺はピンときた。 噂に聞いた事のある、双子の兄弟。 相当ヤバいって噂の双子。 さっき少しやり合って痛い思いもしていたし、それだけで俺はもう逆らう気力がなくなっていた。 見ていると直樹を苛めていた二人も、この双子の言いなりみたいだった。 最初のうちはその双子の憂さ晴らしで俺は行く度に暴力を振るわれた。やられるのは頻繁じゃなかったし、殴られたり蹴られたりするのは顔以外で、傷が目立つこともなかったから周りからも気がつかれなかった。 直樹を苛めていた二人は約束通り直樹にちょっかいを出すことはなくなり、代わりに俺とつるむようになった。 二人は直樹にちゃんと謝罪をしてくれたし、直樹も嬉しそうにそいつらを許した。 これを機に直樹はまた明るさを取り戻し、おまけに俺に告白をして俺が拒絶しなかったのがよほど嬉しかったのか、好きだという気持ちをあまり隠さなくなっていた。 冗談っぽく事あるごとに「大好き」と言うもんだから、周りもそんな深くは考えず、俺と直樹は仲良しコンビとでも言う風に見ていたんだと思う。 以前のような楽しい日常が戻っていく。 俺以外は…… 学年が上がり、直樹とはまた別のクラスになったけど、あの二人と同じクラスになった。 表面上は仲良くつるんでいたけど、奴らは直樹から俺にターゲットを変えただけ。 それでも俺は直樹みたいに全て言いなりにはならなかった。 あの双子の盾がないとそんなに強気には出てこなかったから、学校で俺がやられる事はそんなになかった。 双子に呼び出されれば三人で出向き、他の仲間も一緒にあちこち連れまわされパシリにされる。 気にくわない事があれば殴られる。 月に数回そんな事があったけど、学校では普段と何も変わらない。だから直樹も最初こそは気にして心配してくれてたけど、学年も上がればさほど気にしなくなっていたんだと思う。 あの事が起きるまでは──

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