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安堵

「祐飛?……大丈夫か?」 よく見ると衣服が乱れてる……乱れてるというか、慌てて服を着た感じだ。 この状況を見てすぐに察することが出来た。同時に何にぶつけていいのかわからない怒りが一気にこみ上げてくる。心臓の鼓動が激しい。強く握った拳を俺はどこにぶつけたら気が晴れるのだろうか。震えてる愛しい人を抱きしめながら、俺は怒りで発狂してしまいそうだった。 「直樹……ごめん…… 」 俺の腕の中で祐飛が小さな声で呟いた。 俺は思わずそんな祐飛の頬を叩いてしまった。 もちろん力は込めてはいない。叩いた瞬間、心が痛くて涙が溢れる。 「何してんだよ!……何でこんなとこにいるんだよ! もう行くなって言っただろうが!」 祐飛の顔が見れない…… 「直樹……ごめん……ごめんな……ごめん…… 」 震える声で祐飛が何度も俺に謝る。 何で祐飛が謝るんだよ! 謝らなきゃいけないのは俺なのに…… 「何で謝るんだよ! 俺のせいじゃんかっ! 何でだよ! 何で祐飛が謝るの?……ふざけんなよ!」 なんだよ俺。なに俺、怒ってんだよ。俺はこんな事を言いたいんじゃない…… 「だって直樹が泣いてるから……ごめん」 気がついたら俺の方が祐飛に抱きしめられていた。 「祐飛……ごめん……ごめんね……ずっと辛かったよね……俺のために、ごめん……ありがとう……」 涙が止まらない。 そうだ……祐飛に伝わってるようで伝わってない。もどかしいんだ俺。 わかってほしい。 どれだけ俺が祐飛の事を大切に思ってるのか。 でも伝わらない…… 祐飛にとって俺は、大切な親友でしかないから。 愛しい人とは違うから…… 祐飛の震えもおさまり、俺らはアパートから外に出た。 道の向こうに周さんと修斗さんが立っている。 ……待っててくれたのかな? 祐飛は周さん逹のところまで駆けていく。 周さんは祐飛の頭をぽんぽんとやりながら「もう何も心配すんな、大丈夫だからな」と言い、優しく笑いかけていた。 その後、祐飛にシャワーを浴びさせると言って周さんは俺らを家にまで連れて行ってくれた。 「橘先輩、独り暮らしなんですか?」 周さんのアパートに着くなり祐飛が聞いた。 「んにゃ、お袋と二人だけど、今日は夜勤でお袋いねえから……お前そんなんじゃ家に帰れないだろ? 直樹とホテル行くわけにもいかねえだろうし」 「ホテル……?」 キョトンとしてる祐飛を横目に、俺は苦笑い。 今の状況で祐飛とホテルになんか行ったら俺、何するかわからないや…… 修斗さんが祐飛をバスルームへと連れて行き、綺麗になったら祐飛の手当てもしてくれるらしい。 俺はここに来て初めてホッとして、また泣きそうになってしまっていた。

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