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嵐の後…そしてどきどきの前夜
入江と直樹のゴタゴタも無事に解決し、二人は清々しく帰っていった。
「参ったね……まさかまたあの双子が関わってるとは思わなかったよ」
修斗が眉間にしわを寄せながら、心底嫌そうにそう話す。
……確かに。
「でもそのおかげでスピード解決だ」
俺がそう言うと「だな!」と修斗も笑った。
「さてっと……俺もそろそろ帰るかな」
修斗が立ち上がるのを、俺は思わず引き止めた。
「待って……ちょっとまだ……」
修斗の服の裾をむんずと掴む俺を振り返り、修斗は眉を上げて無言で見つめる。
「………… 」
「ちょっと……まだいてくれよ」
怪訝な顔でこっちを見ている修斗にそう言うと、あからさまに嫌な顔になった。
「何? 周、気持ち悪いよ。お前にそんなん引き止められても、ちっともときめかないし……」
俺の手をぱっぱと払う仕草をして、半笑いでもう一度俺の前に座りなおす修斗。でもそんな風に言ったって、ちゃんと察してくれて俺の話を聞いてくれるんだ。
「なに? どうかした? あんまり遅いと康介が心配するから手短にね」
そう言って俺の顔を覗き込む。ここ数日、このことが頭から離れずにいてどうしたらいいのか不安だったんだ。他にも大事なことが控えていたし、ちょっと吐き出さないとしんどかった。
「あのさ、俺明日……竜太の父ちゃんと会わなきゃなんねぇんだよ。どうしよう……」
俺がそう言うと一瞬キョトンとした修斗は吹き出した。
「なにそれ! 大変〜! 竜太君のお父さんと会ってどうすんの? まさか竜太君を俺にください! なんて言うんじゃないよね??」
楽しそうに笑い転げている。
「俺、真面目に言ってんだけど……」
「あっ……悪い悪い。いやさ、でも何でまたお父さんと会うなんて事態になってんの?」
俺は修斗に、竜太の父ちゃんが滅多に家にいない事や、竜太の母ちゃんには家族同然に思われてる事、竜太が父ちゃんに俺を紹介したいって言ってる事を簡単に説明した。
「あは……竜太君らしいよね。いい子だなぁ竜太君。別に気構えなくてもいつも通りでいいんじゃね? どうしようなんて周らしくないし……」
「でもよ、俺は竜太と付き合ってんだぞ?」
竜太は別に付き合ってる事は言わなくてもいいって言っているけど、本当にそれでいいのかって悩んでるんだ。
「修斗はさ、康介と付き合ってる事は家族に話した?」
俺は気になってる事を修斗に聞いてみると、目を丸くして首をブンブンと振った。
「まさか! 言わねえよ。康介だって言ってねえし……なに? 周、竜太君の親父さんにカミングアウトするつもりなの? 竜太君は言わなくていいって言ってるんでしょ? やめとけって」
そうなんだけどさ……でもいずれは……って思うじゃんか。
「なんで修斗は親に言わないんだ? 康介の事好きなんだろ?」
修斗に聞くと不思議そうに首を傾げた。
「いや……なんでも何も、この先どうなるかわかんねぇじゃん。康介だって俺とずっと付き合ってるとも限らないし、元々はオッパイある子と付き合ったりしてたんだよ? それなのに今のこの状況をわざわざ親に報告して悩ませる必要なくね?」
「………… 」
この先どうなるかわからない?
え?
そんな風に思ってんのか? 修斗は……
「なんでだ? 修斗はこの先康介と別れるかもしれないって思ってんのか? それでいいの? 修斗も康介の事好きじゃなくなるかもしれないって? そういうことなのか??」
いや……俺にはその考え、わかんねぇ。
「俺は! そりゃぁ俺は康介とずっと一緒にいたいって思ってるよ。でもそんなの叶うかどうかわかんねぇじゃん……そんな自信は俺にはないよ。だから、だから俺は親には言わない」
「修斗……康介なら大丈夫だよ」
シュンとしてしまった修斗の頭を優しく撫でる。
「ありがと、周……周はさ、真っ直ぐなんだもんな。羨ましいよ。竜太君とずっと一緒にいるって、迷いがないもんな。でも竜太君が親に言わなくてもいいって言ってんなら、竜太君の意見を尊重してやればいいと思うよ。だってまだまだ先は長いだろ? カミングアウトするのを悩んでんなら、無理にしない方がいい」
……そうだよな。
理解してもらえるとも限らないし、何より竜太と父ちゃんを悩ませるような事はしたくない。
「修斗……ありがとな。俺、いつも通りで行くよ。気が楽んなった」
修斗に改めてお礼を言う。
修斗はそんな俺を気持ちが悪いと言って笑い、帰って行った。
本当はもうひとつ聞いてもらいたい事があったんだけど……
こっちはまた今度でいいか。
明日はいよいよ竜太の父ちゃんとご対面。
やっぱり緊張するな──
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