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いつも通りに
放課後、少しだけ部室に顔を出して入江君と話をした。
やっぱり周さんだけじゃなくて修斗さんにも助けてもらったと教えてくれた。僕が心配するといけないからと言って昨日の事は詳しく話すなと周さん達に言われたみたいだけど、周さんがあっという間に相手をぶちのめしちゃったから驚いたと言って入江君は笑っていた。
僕はいつも周さんに守られてばかりだな……
僕なんか何にもしてないのに、感謝の言葉を並べて僕に凄い頭を下げてくる入江君を見て、逆に申し訳なく思ってしまった。
それでも昨日までの表情とは打って変わって清々しい顔をしているから、本当によかったって心から安心した。側にいた工藤くんも事情は分からないものの入江君がまた明るさを取り戻しつつあるのを感じて嬉しそうにしていた。
本当によかった。
入江君も直樹君も、もう大丈夫だよね。
僕はそのまますぐに部室を出て、帰宅した。
家に帰ると既に母さんが夕飯の準備を始めていた。
今日は特別──
父さんと周さんの好きなメニュー。
僕もキッチンの隅を借りて、チーズケーキの準備を始めた。昨晩、父さんに僕がケーキを焼くと言ったらびっくりしてたっけ。
何度も作ってるので、手際良くすぐに生地が完成。
温めておいたオーブンへ生地を入れ、僕は一旦部屋に戻った。
もう少ししたら周さん到着するかな。
何気なく携帯を眺めると、周さんからメッセージが入っていた。
『いま向かってるから』
ふふ……
ちゃんと時間通りに来てくれてる。
さっき父さんからも連絡が来て、今日は早めに帰ってこられるような事を言っていた。
「………… 」
父さんに周さんの事、なんて言って紹介しよう……
学校の先輩?
友達?
……親友?
仲良くしてもらってる学校の先輩、でいいよね。それが一番自然な事だ。
僕の大切な人。
周さんと僕は全くタイプが違う。
これは周りからもよく言われる事……
伊織なんて僕が周さんにイジメられてると思ってたみたいだし。
そんな見た目の印象があるから、なんで? って父さんも思うかな?
考えると僕まで緊張してきちゃうから、もう考えるのやめよう……
周さんもいつも通りにするって言ってたしね。
別に付き合ってる事を告白するわけじゃないし、いつも通りに……
そう、いつも通りに。
チーズケーキの焼きあがるいい匂いが漂ってくると同時に、玄関の呼び鈴が鳴る。
僕は浮き浮きした気持ちと緊張した気持ちが入り混じったまま、周さんを迎えに玄関へと走った。
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