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対面前

竜太の家の夕食に招かれた。今日は竜太の父ちゃんもいるから俺を紹介してくれるらしい……そうお袋に伝えたら凄い慌ててしまった。 「ちょっと周! そういう事なんでもっと早く言わないのよ! 信じらんない!……えっと、あっ! そうだ…… 周!」 一人でバタバタしているお袋に、おもむろに金を掴まされた。 「それ! それでちゃんと手土産買って持っていきなさいよ……ほら! あそこ……駅前のケーキ屋さんとか! ね? あんたその髪の毛もなんとかなんないの? 印象悪いったら!」 仕事に行く支度をしながら、さっきからドタドタ、ガミガミと猛烈にうるさい。 「周! 竜ちゃんみたいにニコニコお行儀良くねっ。あんたはただでさえ眼つき悪いんだから、ちゃんとニコニコすんのよ! 挨拶もしっかりしなさいよ」 まるで子どもに言うかのような小言……俺だってちゃんと挨拶くらいできるっつうの。いつもちゃんと竜太の母ちゃんに挨拶してるぞ? 「お袋わかったから、うるさいよ。もう出る時間だろ? さっさとメイク済ませて出ていけよ」 「まぁ! 出てけなんて! なんかムカつく!……じゃ行くから、竜ちゃんとご両親によろしく伝えてね、ほんとあちらにはいつもお世話になっちゃって……私もちゃんとご挨拶に伺いたいわ……」 そうブツブツ言いながら、お袋は仕事に出て行った。 俺も服を着替えて髪型を整える。 「……… 」 明るい金髪に近い髪の毛。 いつもは少し立ち上げてセットするけど、今日は特に何もせず静かに下ろしてみた。こうすれば少しは落ち着いて見えるかな? 鏡の前の俺を睨む。 眼つきが悪いとかあまり気にしたことなかったけど……大丈夫だよな? やべ。なんかまた緊張してきた。ヘマやって竜太と竜太の父ちゃんが気まずくなったりでもしたら俺どうすりゃいい? 少し不安になってしまったらどんどん嫌な方へ考えが向いてしまう。 何だか落ち着かなくなってしまい思わず電話をかけてしまった。 「……あ、俺だけど」 『俺だけど……じゃねえよ。なに? まだ竜太君ちにいってないの? そろそろ時間なんじゃねぇの?』 電話口の修斗が面倒くさそうに溜息を吐く。 「なんかよ、やっぱ俺、責任重大なんじゃね? どうしよう……」 『は? 何の責任だよ? 考えすぎだって、バカじゃね〜の? 竜太君のお母さんには気に入られてんだろ? 大丈夫だって。いつも通りでいいんだよ。それこそ約束の時間遅刻していくほうが印象悪いよね? ウダウダ言ってねぇでさっさと行ってきな。俺はこれからデートなの! 邪魔しないでくれる?』 修斗に捲し立てられ、あっという間に電話を切られた。暫し呆然…… だな! もたもたやって遅刻したら大変だ! 我に返った俺は慌てて髪をセットし、家を出た。 途中ケーキ屋に寄ろうと思ったけど、竜太の事だからきっとまたチーズケーキでも焼いてんだろうと思って、寄るのをやめた。 かわりに流行りのチョコ専門店の方に立ち寄り、以前修斗が絶賛していた詰め合わせを購入して竜太の家に急いだ。 道を曲がり、もうすぐそこが竜太の家……っていうところで、俺は誰かに肩を叩かれた。結構な力で叩かれてムッとしながら振り返ると、爽やかを絵に描いたような紳士が俺を見上げて微笑んでいた。

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