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親の心
「もう、いつまでギターやってるの? デザートにチーズケーキ持ってきたから……食べようよ」
竜太が俺の腕を引っ張りソファへと誘導する。
さっきからえらく気に入られたようで、竜太の父ちゃんは俺にべったりな感じだった。気に入ってもらえたのは嬉しいのだけど、竜太を見てるとあからさまに焼きもち妬いてるのがわかる。
困ったな……
ちゃんと俺たちは「友達同士」の雰囲気に見えてるだろうか。
俺は竜太の父ちゃんと並んでソファに座り、竜太が用意してくれたチーズケーキを頂く。今日も安定の美味しさだった。
「まさか竜太がケーキなんか焼くとは思わなかったよ。聞いたら色々作るみたいでほんとに驚いた。色々なことに興味を持つことはいいことだぞ……な? 周君」
俺はコクリと頷きケーキをパクつく。
「遅くなっちゃったし、周君今日は泊まっていくだろ?」
竜太の父ちゃんは、俺の顔と竜太の顔を見ながらそう言った。
面倒くさいし、いつも泊めてもらってるのもあるから「じゃ、お言葉に甘えて……」と即答した。
そこでちょこんと座っている、拗ね気味な竜太とももっと一緒にいたいしね。
用意してもらってもまともに使った事のない客用の布団を、母ちゃんがいつものように竜太の部屋に運んでくれた。その間、竜太は父ちゃんに先に風呂へ入れと促され、渋々と先に風呂へ向かった。
竜太が風呂に行くと、俺は父ちゃんと二人きり。父ちゃんは俺に向かってまたゆっくりと話し始める。
「周君にはね、感謝してるんだよ。あの子がお友達を家に連れてくるなんて今まで全くなかったから。幼馴染の康介君とは仲良く出来てはいたんだけど、どういうわけか幼い頃から人に興味がないみたいでね、咲月と二人で本当に心配してたんだ…… 高校生にもなってるのに親バカだと思うかもしれないけどね、嬉しくて。周君、竜太と仲良くしてくれて本当にありがとう」
さっきまでのふざけた感じが一変して、真面目な顔で話す竜太の父ちゃん。
でもそんなに感謝されるような事じゃない。
俺は竜太と一緒にいたいから……
俺は竜太が好きだから一緒にいるだけだ。
当たり前の事なのに。
「そんな、俺も竜太君の事が好きだから一緒にいるだけだし、これからも当たり前に仲良くしていくつもりです」
俺は思った事をそのまま伝えた。
竜太の母ちゃんもそういえば同じような事言ってたな……竜太が両親に愛されてるのがよくわかる。
俺の言葉に嬉しそうにはにかむ顔が竜太とそっくりで、自然と俺も顔が綻んだ。
「……でもね、申し訳なくも思うんだよ。ごめんな、周君」
え?
何で急にそんなに悲しそうな顔になるんだ?
竜太の父ちゃんは、さっきまであんなに嬉しそうに喋ってたのに、何故か俺に申し訳ないと言って暗い顔になってしまった。
「竜太は今、きっと周君に夢中になってる……もしかしたら友達の枠を超えて周君に執着してしまってるかもしれない。今までまともな人付き合いが出来てなかったから……特に仲良くしてくれてる君に竜太は依存し過ぎてるようにも思えるんだ 」
依存……?
違うよ、依存なんかじゃない。
「迷惑をかけてしまうようなら遠慮なく言ってくれて構わないからね。あの子が傷付くのは親としたら辛いんだが……君に迷惑はかけられないし、何より竜太には真っ当に生きていってほしいから……間違った風に感じたら、ちゃんと突き離してあげてほしい……」
「……はい」
俺はなんて言っていいのかわからなかった。
竜太が傷付くのは俺だってごめんだ。
……俺が竜太を突き離す? そんな事するわけない。
でも、俺たちは間違ってるのか?
そんな事ない……
男だからとか女だからとか、そんなの関係なしで俺は竜太と一緒にいたいんだ。
竜太の父ちゃんは悪気があって言ってるんじゃないってちゃんとわかってる。
でも……
そんな風には言われたくなかった。
カミングアウトするつもりはなかったけど、俺らが告白する前から否定された。
そんな気がして苦しかった──
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