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夏休みの計画

いつもの昼休み── 周さんは修斗さんに揶揄われて少々ご立腹中。 僕の父さんと会う事を修斗さんに話していたみたいで、珍しく周さんが緊張してた事が余程可笑しかったのか、その事を修斗さんがこっそり僕に教えてくれたんだ。 少し遅れて屋上に来た周さんが、それに気付いて不貞腐れてしまったってわけ。 「周? どうだった? お父様とは緊張しないでお話しできたの?」 修斗さんはしつこく周さんにちょっかいを出している。あからさまな揶揄いに、周さんが可哀想になってしまった。 「修斗さん、周さん全然緊張した感じじゃなかったですよ? 僕なんかいなくても父さんとずっと仲良くお喋りしてましたもん……ね、周さん?」 本当に僕なんかそっちのけで、父さんと仲良くしていた周さんが緊張していたようにはまるで見えなかった。 ムスッとした顔のまま、修斗さんの事を知らんぷりする周さん。 「………… 」 「もう! 修斗さん、この話はおしまいです! ……ほら、夏休みの旅行の話しましょうよ。さっき志音も高坂先生に許可もらったって言ってたし。僕すごく楽しみなんです。ね? そろそろ話題変えましょ!」 そう、僕はもうすぐ始まる夏休みが楽しみでしょうがない。 去年は圭さん達に合宿という名の旅行に連れて行ってもらって凄く楽しかった。今年は圭さん達はいないけど、夏休みだしみんなでどこかに行こうって修斗さんが言い出して、旅行をする事になったんだ。 ムスッとしていた周さんが横に座る僕の腰に手を回す。 「でもよ、志音はともかく何であいつも来るんだよ」 相変わらず不満そうな顔…… 今年は志音も誘った。 仕事で忙しくてダメかな? と思ったんだけど、うまく都合がついて一緒に行ける事になった。 でも、旅行に行くメンバーは修斗さんや康介、僕と周さん……志音だって好きな人と一緒がいいでしょ? だから高坂先生も誘ってみなよって話してみたんだ。 そしたらさっき、オッケーもらったって志音が教えてくれた。 その時の凄く嬉しそうな志音の顔を思い出し、僕も頬が緩んでしまった。 「別にいいじゃん、センセーいい人だよ。面白いし。楽しみだね 」 修斗さんは康介の食べているメロンパンを無理矢理奪って、それを頬張りながらそう言った。康介は修斗さんに奪われたメロンパンを取り返そうと噛り付いて文句を言ってる。 そんな康介にはお構いなしに、修斗さんは話を続けた。 「センセーの別荘だよ? 凄いよね。旅行の日はそこの地元の花火大会もあるって言うしさ、花火大会っていったら屋台もでてるでしょ? 楽しみだ。近くには川もあって川遊びとかバーベキューも出来るらしいよ。ん〜まぁ、俺は康介と一緒ならどこでも楽しみだけどね」 そう言った修斗さんは、メロンパンを取られてプリプリしている康介の顔を覗き込む。 途端に真っ赤になって黙っちゃってる康介が可笑しくて、僕は笑ってしまった。 「なんだ? 初耳だぞ。修斗ずいぶん詳しいじゃんか」 周さんが不思議そうな顔で聞く。僕だってついさっき志音から先生も来るって聞かされたばかりだよ。 「うん、さっき保健室いたからさ……なんかセンセー、志音が最近ファンみたいなのにやたら声かけられたりすんの凄え気にしてて……心配だからダメ! なんて言ってるんだもん。過保護かよってね。新幹線ダメ! バスツアーもダメ! ホテルも旅館もダメ! ってうるさいんだもん。ダメダメばっかで志音はしょげちゃってるし、可哀相だって言ってやったら先生自分から提案してきたの。移動はセンセーの車で、宿泊先もセンセーの別荘。それならいいぞって。俺たちからしてみりゃみんなで行ければ何でもいいじゃん?」 うわぁ……本当に先生ってば志音の保護者みたい。 でもそれだけ心配なんだろうな。志音は目立つからね。 それにしても別荘に川遊びにバーベキュー、おまけに花火大会って! 「……凄い! 楽しみ!」 僕はどれも初めての事だからワクワクしてしょうがない。 「周さんっ! 楽しみですね! ね? 楽しみ!」 僕は興奮を隠せずに、周さんの手を握りしめる。 「とりあえず、周も康介も定期テストで赤点免れた事だし、これで安心して旅行できるな」 そう言って修斗さんも笑った。

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