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車中にて

「先生凄いね、別荘なんて持ってんだね」 修斗さんがさっきから楽しそうにお喋りしてる。 「んん、別荘って言っても俺の両親が残したもんで放ったらかしだったんだよ。古くてボロ屋だぞ。まぁ、昔は一人になりたい時に使ってたりもしたけどな……お前らと行くってなったから、こないだ志音に手伝ってもらって大掃除してきたんだからな。感謝しろよ」 「はぁ〜い」 助手席に座る志音をミラー越しに見ると、嬉しそうに微笑んでいた。 なんかいいな…… やっぱり先生と一緒に誘ってよかった。 「あ……先生、僕みんなのおやつ作ってきたんだけど、車の中で食べてもいいですか?」 僕と周さんは一番後ろの席に座ってるから、ちゃんと聞こえるように少し大きな声で運転してる高坂先生に声をかけた。 「え? え? 作ってきた? 竜太くん、お菓子作ってきたの?」 バックミラー越しに先生と目が合った。 「はい、一応車の中で溢れないようにって考えて、ひと口サイズのビスケットにしたんですけど……」 「凄いね。もちろんいいよ、俺も頂きたい」 先生に許可を貰ったので、僕は用意しておいた小袋をそれぞれのカップルに配った。 「竜……圭さんに並ぶ女子力の高さ 」 振り返る康介にボソッと言われて恥ずかしくなる。 僕は男だ…… 前を見ると、運転をしている先生の口にビスケットを運んであげてる志音が見えた。それに気付いた修斗さんが、康介に向かって「あ〜ん」って大きく口を開ける。赤い顔をして康介が修斗さんに食べさせてあげると、修斗さんはお返しに、ってひとつビスケットを口に咥え、康介に向かってそれを突き出す。まるでキスしてほしいみたい。また修斗さん、康介のこと揶揄ってるんだ。 アワアワして康介がチラッとこっちを見るから、僕はサッと目線をそらした。見られてないと思ったのか、康介は素早く修斗さんの口にあるビスケットをキスするようにパクッと食べるもんだから、僕は可笑しくて笑ってしまった。 「……? ちょっと! なに? 竜!」 慌てた康介が振り返ると真っ赤っか。隣では修斗さんも笑ってる。そんなの後ろの席から丸見えなの当たり前じゃん。 「修斗くんと康介くんはラブラブだね。見せつけてくれちゃって…… 」 運転している先生にまで揶揄われて、康介はプイっと機嫌を損ねてしまった。でもこんなのいつもの事だから心配する必要もない。 「あ、周さんはどうですか? ビスケット美味しい?」 さっきから口数の少ない周さんに聞いてみた。 「ん? 美味いよ。あっさりしてて食べやすい……」 そう言って周さんはもうひとつ口に放ると、そのまま僕にもたれかかり目を瞑ってしまった。 ……疲れてるのかな? 僕は周さんに話しかけるのをやめ、窓の外の景色を眺めた。 静かにBGMが流れる中、修斗さんと康介は相変わらず普段通りにお喋りしたりふざけ合ったり……そんな二人に、志音と先生も突っ込みを入れたりして楽しく会話をしている。 周さんはというと、僕にもたれかかって寝ていたのが、とうとう横に倒れてしまい僕の腿に頭を乗っけて爆睡してしまっていた。 ……膝枕。 いつも思うけど、寝心地悪くないのかな。それでも起こしてしまうのは可哀想だから、僕はそっと優しく頭を撫でた。 車だから周さんはいつも以上に窮屈そうに体を折り曲げ、僕の腿に頭を乗せてる。 ……そろそろ起こしたほうがいいかな? 腰とか痛くなっちゃうよね。 やっぱり心配で周さんの顔を覗き込むと、ぱっちりと目を開けた周さんと目が合ったのでびっくりしてしまった。 起きてたの? そう言おうと周さんを見ると、僕を見上げた周さんが目を瞑って口を突き出している。 ……! え? って思った時には既に頭を引き寄せられて、僕はキスをされていた。 「……!! 」 チュッと軽くリップ音をたて、周さんがしたり顔で僕を見る。 僕は極力小さな声で「何やってるんですか! 驚かせないでください!」と抗議する。そんな僕には御構い無しでクスクスと笑ってる周さん。 慌てて顔をあげたら修斗さんがこちらを向いていて笑ってる。 小さな声で「いいもん見ちゃった……」と呟いた。 もう! 周さんってば! 恥ずかしい。

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