94 / 377

バーベキュー

「よし! とりあえずリビングに荷物下ろして…… 」 先生が鍵を開け、中へ入っていく。 到着したのはログハウス風の大きな家。 玄関を入るとすぐにリビングで、そこは吹き抜けになっていてかなりの開放感があった。 思いの外広くてお洒落な空間に、康介は荷物を持ったまま上を向いてぽかんと口を開けている。 「すげぇ、広っ!」 そう叫ぶと荷物をどかっとほっぽらかしてあちこち歩き回り始めた。 僕も康介に続き、少し部屋を見て回った。 そして少し休憩してから、みんなでバーベキューの支度に取り掛かる。 興味津々でまだ部屋中歩き回っている康介も先生に捕まり、気を取り直して外に出た。 「ほれ、康介くんも手伝って。すぐ裏から下りると川があるからさ、用意してある道具……はい、分担して持ってけ」 前もって用意しておいてくれたのか、裏口にはバーベキューのセットやイス、木炭なんかが纏まって置いてあった。それらを分担して持ち、少し坂を下って川原へ向かった。頬を風が擽り微かに川のせせらぎも聞こえてくる。どうしたってワクワクしてしまい、ついつい足も早くなってしまう。 「おい……気をつけろよ」 段差に躓きそうになった僕を周さんが支えてくれた。ただでさえそそっかしいんだから、気をつけなくっちゃね。 川原に着くと手際の良い先生がバーベキューコンロを設置した。志音と康介は先生に言われ日除けのタープを組み立てる。 僕は食材の用意…… コンロを設置し終えた先生は、周さんと修斗さんに軍手と炭を手渡した。 「年長組は火おこししといて」 そう言うも、周さんと修斗さんは突っ立ったまま動かない。 「……いや、俺らこういうのやった事ねぇし」 ……そうだよ。僕もバーベキューなんて初めてだもん。料理は出来るけど、こうやって外でバーベキューなんて初めての経験だし、戸惑ってしまうよね。 「そっか! そうだよな。悪い……じゃ、竜太くんと一緒にそこで野菜切ったりしておいて。道具とか足りなかったら部屋から持って来ればいいから…… 」 そう先生が言ったので、僕はひとまず包丁を取りに戻った。 包丁を持って戻ると、周さんと修斗さん、康介も一緒に川に入って遊んでた。 え? 「あ! 悪いな、竜太くん。あいつらダメだぁ、口ばっかで全然役に立たねえ。包丁なんて持たせたら危なっかしいし、肉肉うるせえし、焼けるまであっちで遊んどいてもらった方が早いと思ってね。竜太くんと志音に手伝ってもらった方が断然スムーズだよ」 先生に言われ、見てみるともう既に肉を焼く準備は整っていた。 「肉ばっか焼いてるとあいつら肉しか食わないから、先に野菜な。適当に切っておいて。あとそこのクーラーボックスに飲み物あるから好きなの飲みなね」 僕は志音と並んで野菜を切る。 玉ねぎ、ズッキーニ、ナスにカボチャ…… しばらくすると、暑かったのか上半身裸になった周さんが髪まで濡らして戻ってきた。 「あっちい〜! 喉乾いた……え? 先生ビールは?」 クーラーボックスを覗き込む周さん。 「バカじゃねえの? あるわけないだろ。保護者様からお前ら預かってんだぞ。未成年者には飲ませねえよ」 先生が、周さんの頭をポンと叩く。 「そもそも俺だって今回は飲まねえから……コーラで我慢しろ」 しばらくクーラーボックスをごそごそと漁っていた周さんが僕にアイスティーを取ってくれて、後ろから回り込んで僕の頬にキスをする。 「もうっ、周さん危ないですよ!」 僕はちょうど包丁を使って野菜を切っている途中だった。 周りには僕らしかいないってわかっているけど、それでもこんな外でキスなんてドキッとしてしまう。慌てる僕に御構いなしに悪戯っぽく笑った周さんはまた川遊びに戻っていった。 「もう、みんな他人がいないからってオープンだよね。康介君たちもだし……」 みんなを見ながら志音がクスクスと笑ってる。 川の方を見ると康介も修斗さんも上半身裸になって、腰まで川に浸かった康介が修斗さんをおんぶしていた。修斗さんは大はしゃぎで康介にしがみついてる。 「なんか開放感からか知らないけど、僕だって恥ずかしいよ……嬉しいけどね。志音だって普段学校では甘えられないんだからここではイチャイチャしたらどう?」 少し揶揄ってそう言うと、いつの間にか近くにいた先生が志音の肩を抱いた。 「竜太くんに言われなくてもいつもイチャイチャしてるよ。志音はね、照れ屋さんなんだよね」 「………… 」 「なんだろう……先生の目線がいやらしいです」 志音の耳元に唇を寄せてる先生を見て、つい思った事が溢れてしまい、慌てて口を押さえた。 真っ赤になった志音が先生を小突き、ヘラヘラしながら調理に戻る先生を睨みつける。そこまで照れるとは思ってなかったから、ちょっと悪いことしちゃったと反省した。 「竜太くんも志音も遊んでおいで。焼けたら呼ぶから。手伝いありがと」 ひと通り野菜も切り終えたタイミングで先生に声をかけられ、僕は急いで切った野菜を皿に並べた。 本当は僕も周さんのところに行って一緒に遊びたかったんだ。 気持ちが焦り、野菜を先生のところに持って行こうと足を踏み出し体の向きを変える。 わかってる── ちょっと注意力が散漫になってしまったのは僕の悪いところだ……

ともだちにシェアしよう!