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女なら……
バーベキューを終えて今度は花火大会。楽しい事がてんこ盛りで気分も昂ぶる。
……でもさっきの。ちょっと修斗さんやり過ぎだよ。
修斗さんがみんなの前で俺のことを揶揄うのはいつもの事。でもズボンまで下ろす事ないんじゃね? 高坂先生にあんな事言うくらいなら、初めから俺の事裸にするなっての。自分でしておきながら不機嫌になるのは勘弁してほしい。
でも、ちょっと嬉しかったな。
いつも余裕な修斗さんから垣間見れた俺に対する独占欲みたいなもの。まわりのみんなが俺らの事を知ってるからか、ストレートにああやって言われるとすごく嬉しいし照れ臭かった。
川で濡れたから、シャワーを借りて綺麗にする。修斗さんもシャワーを済ませて、また頭びしゃびしゃに濡れたまんまで出てくるから乾かすのを手伝ってあげた。
面倒だからと言っていつものようなセットはせずに、無造作に下ろした髪型が普段と違って幼くてなんだか可愛い。
「ん? なに? じっと見て……気持ち悪い」
修斗さんに変な顔されたけど、俺に見つめられて恥ずかしそうな顔をするから俺まで恥ずかしくなってくる。
「いつもと雰囲気違うから、なんか新鮮だなって思って」
そう言うと修斗さんはふいっと顔を逸らした。
「ほら、周たちもう行っちゃったよ。俺らも行こっ」
まるで照れ隠しのように目を逸らしたまま俺に言い、修斗さんはさっさと玄関に行ってしまった。
先生と志音は俺らが出てから戸締りをして行くと言って、まだ部屋でゆっくりしていた。
俺は修斗さんと並んで二人で歩く。
「ねぇ、さっき見た? 周と竜太君、仲よさそうに手を繋いで出て行ったよ」
うん、俺も見た……
出て行く二人の姿をチラッと覗き見たら、周さんがおもむろに竜の手を取ってそのまま手を繋いで歩いていくのがわかった。
ごく自然な流れで、俺には恥ずかしくて到底できない事を、何でもないように周さんはやっていた。二人の時はいつもああいう風にしてるのかな? 恥ずかしくないのかな。
竜と周さんが付き合ってるのはもちろん知ってるけど、実際ああいうのを目の当たりにすると、何だか複雑な気持ちになる。
男同士だから人前ではいちゃいちゃしちゃいけないって思ってるけど……
……なんでダメなんだろう。
「康介? どした? 早く行こっ」
ぼんやりノロノロ歩く俺を振り返り、修斗さんが笑顔を向ける。そんな修斗さんに追いついた俺は、黙って修斗さんの手を取った。
「……? なになに?? 何で手繋ぐの?」
慌てた修斗さんがブンブンと俺の手を振りほどく。
「……なんとなく」
ちょっと勇気出して手を取ったのに、案の定 修斗さんに振り払われた俺は自分の手に視線を落とした。
そんなに嫌がらなくてもいいじゃんか。
悔しくなった俺はもう一度修斗さんの手を捕まえた。
「修斗さん、顔真っ赤…… もしかして恥ずかしいの?」
意外にも修斗さんが照れている。
修斗さんが手を拒むのは、人の目を気にして……男同士が手を繋ぐのはおかしい……と、そういう理由でなのかと思ったから、顔を赤らめている姿がちょっと意外だった。
「当たり前でしょ! 恥ずかしいじゃん。康介おかしいよ、康介だって恥ずかしいでしょ?」
「うん……恥ずかしい。でもさ、もし俺が女だったら、修斗さん恥ずかしくないよね? 肩とか抱いてくれるのかな」
男同士だから?
男同士だって恋人同士みたいにしたっていいじゃんか……
でも後ろめたい気持ちも湧いてくるのは、やっぱり男同士だからなんだ。
「康介はバカだなぁ……」
俺に手を握られたままの修斗さんが、呆れ顔で俺を見ている。
「なんだよ、バカって! どうせ俺はバカですよ」
「康介? 俺は康介が女だったとしても恥ずかしいよ。俺は本気で好きなんだもん。ドキドキしたり恥ずかしかったりするじゃんか。男でも女でも、好きなヤツが相手なら俺は照れ臭くて恥ずかしいの……」
男でも女でも関係なくね? と笑ってる。
「………… 」
「でも康介って女装似合わなそうだよね! 男のままでいいよ。女装するなら俺でしょ」
そう言って修斗さんはくすくすと笑った。
「そういうことを言ってるんじゃないですっ! もういいや、どうでもよくなっちゃった」
「そっ、康介はあんまりそういうの深く考えなくていいよ……バカだから」
ケラケラと笑いながら握った俺の手をぎゅうっと握り返してくれる修斗さん。
「ごめんね。ありのままの康介が俺は大好きだよ」
「……そういうの、恥ずかしいから二人っきりの時にいっぱい言ってください」
「ふふっ、康介の照れ屋さん」
そんなのお互い様だろ。
手を振りほどかれることはなかったから、俺は人混みに出るまでしっかりと修斗さんの手を掴んで歩いた。
俺たちは花火がよく見える河川敷まで行く道中、出店でたこ焼きと焼きそばを買って先に場所を取ってくれていた竜と周さんと合流した。
四人でゴロンと横になり、打ち上げられてく花火に見惚れる。
目の前の大輪の花火……
凄い大迫力。
「凄えな! こんな近くで見たの俺初めてだ!」
周さんが大きな声で竜と話してる。
「俺……音ちょっと怖いかも」
修斗さんはちょこんと座りなおして、両手を軽く耳元に当てていた。その姿が子どもっぽくて凄い可愛い。俺はそんな修斗さんの隣にそっと寄り添い、花火を楽しんだ。
見上げる大輪の花火が特別なものに見える。また来年も一緒に花火を見に行けるといいな……と、隣に座る修斗さんにそっと伝えた。
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