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それぞれの夜… 高坂の思い

志音や竜太君に誘われたものの正直乗り気じゃなかったし、別に俺まで行かなくていいだろう……とそう思っていた。だけどよくよく考えたらあいつらみんなカップルじゃん。それに志音は友達と旅行なんてした事もないだろうと気が付いて、気持ち改め俺も一緒に行く事にした。 最近モデルの仕事と一緒にテレビCMなど露出も増えてきて、志音と外を歩くと声をかけられる事が多くなってきた。だから俺は極力志音が人目に晒されないような場所を考えた。 親が残した別荘。 年に一度……二度くらいかな? たまに一人になりたい時に使っていた俺の別荘。そこなら人目にもつかないしすぐ裏には川もある。夏らしくみんなでバーベキューもできるし、確かその日は花火大会もあったはずだ。 丁度いいと思いそう決めた。 別荘にはここしばらく行ってなかったから掃除が必要で、手伝いたいと言う志音も一緒に事前に二人で掃除をし、そしてここに泊まった。 不思議な気分だった。 一人になりたい時、逃げたかった時……俺が独りで過ごしたこの場所に今は志音と二人でいる。 志音をここに連れてこられた事、両親の墓参りに一緒に行ったあの時のように、俺は嬉しかった。 旅行当日。仲間内で楽しく旅行。でもこいつらにとってはやっぱり俺は先生であって、どうしても引率役感が拭えない。ま、それはしょうがないよな。歳も全然離れてるんだし…… 途中いつもの調子で修斗くんなんかと冗談言っていたら志音の機嫌を損ねてしまった。 恥ずかしいのかな? 怒っている志音もやっぱり可愛い。 俺と二人の時は甘えてくるくせに友達と一緒だとそういうところは見せたくないらしい。そんな志音の心情がわかってちょっと揶揄うつもりが、やり過ぎてしまった。 それでも大した事言ってないんだけどな。 夜、リビングで集まりお喋りが始まった。同年代の友人同士の話に俺なんかがいたら邪魔だろうと思って俺は先に寝室へ引っ込んだ。志音が来たらやり過ぎた事は謝ろう…… ベッドに横になり、ぼんやりと考えてるうちに眠くなってしまったらしい。気がついたら、志音がベッドに腰掛け俺の顔を見下ろしていた。 ……相変わらず綺麗な顔だ。 「……あ、ごめんね。起こしちゃった?」 志音が俺の頬に手を添える。さっきまでとは違う優しい顔。 「ん……大丈夫。起きてた……」 「ふふ……嘘ばっかり。ごめんね、みんなも一緒だし気を使って疲れたんでしょ。寝てていいよ」 ふわりと俺の頭を撫でる志音。優しい気遣い。 その手をそっと掴むと、俺は自分に引き寄せた。 「……さっきはごめんな。冗談言われたり茶化されるの嫌だった? 他の男の体褒めたりしたのも嫌だった? ……でも俺、本気で言ってるんじゃないからな」 ちゃんと目を見て志音に謝り弁解をする。俺が冗談のつもりでも志音は嫌だと思ったんだ。折角の楽しい旅行、仲良く過ごしたいよな。 「いや、冗談なのわかってるし……ただ俺は陸也さんがみんなから軽く見られるのが嫌なだけだよ」 志音が顔をそらしてボソっと言った。 「俺はそういうキャラなんだし、軽くていいんだよ……」 まさかそんなことで機嫌が悪かっただなんて夢にも思わず驚いてしまい、志音の顔を覗き込んだ。 みんなの前じゃ俺はそういうキャラだろうが。 「軽くない! 陸也さんは真面目だよ! 」 何を言ってるんだという顔をして志音は怒る。俺のために怒っている志音が愛しくて、嬉しくて、そっと抱き寄せキスをした。 「ありがと。志音がちゃんとわかっててくれれば俺はいいよ」 志音も俺に体を預け、そっと唇に触れるキスをする。そのままベッドに招き入れ、俺は志音を腕に抱きしめた。

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