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自由行動
朝食を済ませて、各々自由に過ごす──
修斗さんはソファでダラダラ携帯を弄ったりお喋りしたり。そんな修斗さんの横では康介が寄り添ってテレビを見ている。先生と志音は二人で買い物に行ったり別荘の掃除。僕は周さんと二人で外に出て買い物へ……
母さんのお土産を買いに……は勿論だけど、本当の目的は今話題になってる有名なソフトクリームだった。
ソフトクリームのお店は周さんが僕が好きそうだからと言って教えてくれた。周さんはこういうのはあまり好きじゃないのに、僕のためにお店の場所など調べてくれたりして凄く嬉しかった。
「なんとなく調べてみたらさ、すぐ近くなんだよ。せっかくだから食いに行こう。昼前までに戻りゃいいんだろ?」
周さんの言う通り、先生の別荘から五分もかからないうちに目的のお店が見えてきた。
「……うげ」
「どうします……?」
お店の前の長蛇の列が目に飛び込んできて思わず呻き声をあげる周さんに聞いてみる。
「もしかしてあれ、全員ソフトクリームで並んでんのか?」
お店に近づき、改めて行列を見た周さんの顔が曇った。
「……たかだかソフトクリームに、馬鹿じゃねえの?」
周さんの呆れた声に、最後尾の女の子が振り返り睨んできた。思ったことすぐ口にしちゃうの可愛いけど、こういうのはちょっとダメだ。
「あ……周さんっ! みんなここでしか食べられないから頑張って並んでるんですよ。僕はいいですから、ね? もう帰りましょう……」
嫌そうな周さんに悪いから、諦めて引き返そうともと来た道へと振り返る。たかだかソフトクリームにこんなに並んでいるなんて僕も想定外だった。
「は? 待てよ。並ばねえの?」
急に周さんに腕を引っ張られ、足がもつれ転びそうになる。
「あぶね……! ごめんな、強く引っ張りすぎた。てか何で帰るんだ?」
よろめく僕の体を抱えながら周さんは不思議そうに聞いてくるから、慌てて体を離した。なんでも何も、周さん嫌そうだし。
それに、僕がよろけたのがいけないんだけど、周さんの顔が近くて……びっくりしちゃった。
「いや、だって凄い並んでるし。周さん嫌でしょ? 女の子ばっかの列に並ぶのなんて……」
小さな声でそう言うと、周さんは僕の手を引いて最後尾に並んだ。
「面倒くせえけど、竜太が食べたいなら別に構わねえよ。ここでしか食えねんだろ? 並ぼうぜ」
笑顔でそう言ってくれたから、申し訳ないな……と思いつつ、僕は周さんに甘えて二人で並ぶ事にした。
少しずつ列が進む。
気のせいかな……?
チラチラと前に並んでる女の子たちの視線を感じた。
本当に並んでるの女の子ばっかりだ。カップルも並んでるけど、あぁ……彼氏の方はつまらなそうに携帯を弄ってる。
チラッと横を見てみると、ん? って顔をした周さんと目が合った。
「なんかすみません……」
こんな事に付き合わせてしまって、やっぱり申し訳なく感じて謝った。
「何で謝るんだ? 嫌なのか?」
「いや、そうじゃなくて…… 」
周さんは不思議そうな顔をして首を傾げる。
「あのぉ! あなたがさっき並ぶの嫌そうな事言ってたからでしょう? たかだかソフトクリームに馬鹿じゃねえのかって! だからそこの彼、悪いと思って謝るんでしょうが」
急に僕らの前に並んでた女の人が振り返り周さんに突っかかってきて驚いた。
周さんはキョトンとして、僕に向かって「そうなのか?」なんて聞いてくるからおかしくなってしまった。
「はい、周さんは甘いの食べないでしょ? だから僕のために悪いな……って思って」
女の人もうんうんと頷いてる。見知らぬ人が僕の気持ちを代弁してくれたんだとわかってちょっと嬉しかった。
「竜太は食いたいんだろ? 俺は食わねえけど、竜太が喜ぶ顔が見たいから一緒に並んでんだよ。何も嫌じゃねえよ?」
サラッと恥ずかしい事を言う周さんに顔が熱くなっていると、前に並んでる女の人が「仲がいいんですね」と言ってクスッと笑った。
「なぁ、そんなに美味いのか? ほんとただのソフトクリームじゃねえの?」
周さんが聞くと女の人はまた振り返り、それこそ馬鹿じゃないの? と言わんばかりの顔で周さんに話し始める。
「私これ食べるの二回目ですけど、めっちゃ美味しいですよ。特にチョコソフトね! なんか最高級のカカオパウダーを使ったソフトみたいで絶品なんだから!」
そこらのソフトとは別格だと言って目をキラキラさせて話す彼女に若干引き気味な周さんだったけど、僕はそんな事を聞いたら益々楽しみになってきてしまい頬が緩んでしょうがなかった。
「周さん! やっぱ周さんも食べればいいのに。あ! そうだ! 修斗さんチョコ好きじゃないですか! きっと修斗さんも食べたいよね……どうしよう。聞いてみようかな」
修斗さんは僕と同じで甘いものも大好き。中でもチョコに関しては特別だって康介から聞いていたから、修斗さんは絶対このソフトクリームは食べたいだろうとそう思った。
僕は携帯を取り出しかけようとすると、周さんが僕から携帯を取り修斗さんに電話をかけた。
「おう、今竜太とソフトクリームの店並んでんだけど、お前もくる?……ん、そうそう、へぇ知ってんだ。はぁ? ズルくねえよ! うん、うん、わかった。はぁい……」
通話を切ると、僕に電話を返してくれた。
「なんか修斗動けねえから、康介が取りに来るから買っとけってさ。俺らだけずるいって騒いでたよ」
お喋りしてるうちに列もどんどん進み後わずか。
それからすぐに、僕は修斗さんの分と自分の分を買う事ができた。そして丁度そのタイミングで康介が走って到着。修斗さんのソフトを持ってまたすぐに引き返していく康介の後ろ姿を見送って、僕らは店の横のベンチに座った。
康介はちゃんと修斗さんに届けることができたかな。
一つのソフトクリームを周さんと分け合いながら味わう。噂通りの美味しさで周さんも美味しいと言って喜んでくれて僕は大満足だった。
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