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周の葛藤

みんなで夏休みに旅行に行った。 その前には竜太の父ちゃんと対面…… 竜太の母ちゃんには家族同然だと言ってもらえてよくしてもらってきたけど、父ちゃんとは初対面だからやっぱり緊張した。 でも父ちゃんとも直接会って話してみて、竜太がどれだけ愛情を注がれて育ってきたのかが俺にも伝わってきて……だからきちんと挨拶できてよかったと思ってる。 でもまだ俺には会わなきゃならない人物がもう一人いるんだ── 本当は会いたくない。 認めたくないのが本音…… お袋の再婚。 付き合ってる人がいるだなんて聞いたこともなかったし、突然の事で俺は混乱した。でも恋愛なんて自由なんだし、勝手にしろってそう思った。 夏休み前、お袋は仕事から帰るなり改まった顔をして話し始めたんだ。 「母さん、再婚したいんだけど……周はどう思う?」 再婚? ……なんで? なんで俺に聞く? 「再婚」って言葉が飛んできたとたんに、俺の頭の中でお袋と俺、そして顔も知らない男の三人が同じ屋根の下で家族になってるイメージが浮かんだ。 はっきり言って気分が悪くなった。 「どう思う?」 「どうもこうも、知らねえよ!」 俺は思わずそう言って、それからはお袋を避けた。 お互い仕事と学校、バイトやスタジオ練習だったり普段からすれ違いな生活だったから、俺が避けてれば本当に何日も会うことはなくて、俺の携帯にはお袋からのメッセージばかり溜まっていった。 数日そんな日が続きとうとう話にならないと痺れを切らしたお袋は仕事を休んで俺のことを部屋で待っていた。 俺の勝手で迷惑かけた。 「あんたわざと避けてるでしょ……そんなに反対ならいいのよ、籍なんか入れなくて。周が嫌なことは私はしたくないから……」 少し寂しそうにお袋がそう言う。 違う、嫌なんじゃない……わからないんだ。 俺は物心ついたときからお袋と二人だった。 親戚付き合いもなくて、若いお袋と俺の二人。 不思議と「父さん」と呼べるような人が欲しいとも思わなかったし、お袋は俺が守る……そう幼心に決心して生きてきた。 いや、実際にはお袋に守られて、育ててもらってここまで生きてきたんだけどな。 でも俺がずっと側にいて、守ってやる…… 年老いたとしても俺が付き添い、そしてその時が来たら俺が看取る。俺は自然にそう思って生きてきた。 当たり前に俺の家族はお袋だけだと決めつけていたから、突然お袋に結婚相手が出来たことに俺の頭はついていけてないんだ。 「嫌だとか……そういうんじゃなくて。わかんねぇんだ。知らない奴が俺たちと家族に?」 お袋の顔が見れない。 これ以上言葉が出ない…… きっと俺は、俺が守ろうとしていたお袋を突然見知らぬ男に掻っ攫われるような事態を認めたくないんだと思う。 お袋の幸せはお袋が選んでいいはずなのに「どう思う?」なんて俺に選ばせようとしてるのもきっと気に入らないんだ。 でもそうさせてしまってるのは俺がまだ子どもで未熟だから…… 悔しいけどしょうがない。 前にお袋が俺に言ったこと。 『──あなたの人生、悩んだって躓いたって、後悔しないように自分で決めなさい』 俺だって、お袋にそっくりそのまま言ってやりたい。なのになんで言葉が出てこないんだよ。 お袋にこんな寂しそうな顔させて……何やってんだ俺は。 こうして、もやもやしたまま俺は毎日を過ごしみんなと旅行に行った。途中何度もお袋からメッセージが来ていて、そのうちのひとつに再婚相手が俺と二人で会いたいと言っている旨が書かれててあった。

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