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大人……だけど子ども
謙誠は自分のオフィスだと言って小さなビルの一室に俺を案内し、その部屋でケーキを出してくれた。
俺は子どもか……
竜太なら喜んでパクつくだろうけど、俺は甘いのはそんなに得意じゃない。渋々俺は何処ぞの有名店のショートケーキとやらを少しずつフォークで突っつく。謙誠はそんな俺の姿を、嬉しそうに目を細めて見つめていた。
ひと休みして買い物を済ませ、謙誠のマンションに向かう。どうやら夕飯は謙誠が作ってくれるらしい。
再婚の話なんてさ、どっか喫茶店ででもいいからちょこっと会って、それで挨拶済ませりゃいい話じゃん? わざわざ俺とサシで会って、ここまでする意味あるのかな。
変なの……なんて思いながら謙誠の顔を盗み見る。
そういえば会った時からずっとニコニコしてんのな。
謙誠が話しやすいタイプでよかった。
お堅いタイプの人間なら間違いなく俺は嫌われて、最悪お袋の再婚話もなくなってたかもしれない。
謙誠の住んでいるマンションは、この辺りではちょっと浮いた感じの高層マンションだった。
最上階……ではなかったけど、結構上の方の階だから景色は最高だ。高所恐怖症気味な修斗は、きっとこんなとこ落ち着かねえだろうな。
エプロンをつけキッチンに立ちながら俺に話しかけてくる。
「周君は嫌いなものとくにないよね?……人に料理を作るなんて久しぶりだからなんだか嬉しいな」
そう言ってはにかみながら手際よく一品二品と料理を完成させていく。
「あ、謙誠さんって料理するの? やっぱりコックさん?」
「うん、一応ね。そこそこ上手く作るよ。でも一緒に住むようになったら雅ちゃんの料理が食べたいな」
「………… 」
謙誠が作ってくれた料理、定番のハンバーグ……なんだけど、今まで食べたことがないくらいの美味しさでびっくりした。
デミグラスのハンバーグにサラダ、コンソメスープ。デザートまで用意してある。
「あのさ、周君はお母さんの再婚……どう思う? 僕と半日一緒にいて……あの……その、少しは仲良くなれた……かな?」
急に歯切れ悪くなる謙誠がちょっと可笑しい。
そうだよな……
きっと俺なんかよりずっと緊張してんだろう。
俺が話しやすいように、早く打ち解けられるように一生懸命やってくれてた……って感じかな。
「いや、別にどう思うも何も、お袋が選んだ人なんだから初めっから反対なんかしねえよ。安心しなよ。俺のことなんかそんな気にしなくていいんじゃね?」
俺は気を遣って言ったつもりだったんだけど、なんだか謙誠の顔色が変わってしまった。
「気にしないわけないだろ! 大事な事だ。周君が気にしなくても僕は真剣だよ……ていうか、周君だってそんな簡単な事じゃないだろう? 君はもう十分に大人だけど、でもまだ子どもだ。雅ちゃんから沢山君の事を聞いてるよ」
お袋は俺の何を謙誠に話したのだろう……
「周君は雅ちゃんにとって全てだ。小さい時からずっと雅ちゃんを守っていてくれたんだろ? 父親の事だって一度だって聞かれた事がない……お父さんが欲しいなんて事も一度も言われた事がないって雅ちゃん言ってたぞ。子どもらしい感情を抑え込ませてしまって申し訳ないって…… 」
「は? 何言ってんの? 俺は別に感情を抑え込んでたわけじゃねえよ? それが自然だったんだ。男なんだ。お袋を助ける、守るのは当たり前だろ?」
お袋がそんな風に思っていたなんて……
「うん、そうだね……周君はさ、小さい時からそうやってお母さんの事を守ってきたんだ。詳しくは教えてくれないけど、女手一つで頼る人もいない、相当な苦労があったはず。でもそれでも周君がいて、周君が支えになってくれてたから今の私があるってお母さん言ってたぞ。雅ちゃんはね、周君が少しでも嫌だと感じるのなら再婚は無しだって言ってる。周君が最優先なんだ。それは僕だって同じだよ」
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