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家族に
最優先もなにもさ、俺だってお袋が幸せに思える生活ができるのが一番いいに決まってる。でもこういうのって他人には言いにくい。てか、恥ずかしい。
しばらく黙ってしまっていたら、謙誠がフッと笑った。
「周君は何か僕に思うところでもあるのかな? ……遠慮はいらないよ。僕は君と親子になりたいって思ってる人間なんだから。言いたいことがあるのなら、ちゃんと言いなさい」
「……いや、思うところっていうかさ、俺は反対なんかしないから。別に思うところなんて無いし。あ……しいていえば謙誠さん第一印象チャラかったからちょっと不安だった、かな?」
「………… 」
なんだよ。場を和ませようとして俺、冗談言ったのに……
いや、チャラい印象は本当だけど。
なにしょんぼりしちゃってんの?
「謙誠さん? 冗談だよ。なに? もしかして面倒くさい人なの?」
「……周君、言い過ぎ。でも、嬉しいかもこういうの」
少しだけ笑って、謙誠はグラスにビールを注ぐ。
俺にはオレンジジュース……別にいいけどさ。
「俺はオレンジジュース……だよね?」
「ん? は? もしかしてビール飲みたいの? だめだめ! ……でも周君お酒強そうだね。ハタチになったら二人で呑もうな」
そう言って今度は豪快に笑った。
「……そんなにお袋の事好きなの? 好きならさ、本当、俺の事よりお袋優先なんじゃないの?」
俺に気を遣わないで二人で決めればいい。
やっぱりそう思って聞いてみる。
「好きだから、雅ちゃんの大切なものはみんな守る。雅ちゃんが周君を最優先するのは君を愛してるからだろ? だから僕にも愛させてほしいんだ」
……恥ずかしいセリフをさらっと言う。
「周君のことも、僕に守らせてくれないか? 僕と家族になってほしい」
そして真面目な顔で俺に頭を下げる謙誠。
俺なんかに頭なんか下げちゃって。
「俺、いいよ。お袋の再婚、賛成だから……お袋の事、よろしくお願いします」
複雑なのは変わらないけど、根本的なところはもう決まってる。
お袋が選んだ人なんだから好きにすればいい。
好きなら一緒になりたいもんな。
俺が反対する理由なんてない。
俺が受け入れればいいだけのことだ。
俺も改めて謙誠に頭を下げた。
「お袋共々よろしくお願いします」
顔を上げると、真っ赤な顔をした謙誠が目を見開いて俺を見ていた。
みるみる涙が溢れ、ポロポロと涙が落ちる。
「え? おいおい! なに? そんなに泣く事? ちょっと、泣くなよ……ごめんって!……ごめんな」
大の大人がボロボロ泣くなんて、俺はちょっと焦ってしまってとりあえず俺は謙誠に謝りまくった。
……いや、なんで謝ってんだ? 俺。
「はは……こんなに周君の言葉が嬉しいとは思わなかった! 嬉しいな。やば、みっともないな……」
泣き笑いしながら、一生懸命涙を拭う謙誠が可笑しくて笑ってしまう。
「謙誠さん泣き虫なんだな。おもしれえな」
二人顔を見合わせ笑い合う。
多分俺はこの人とはうまくやっていける気がする。
俺の家族。
俺の父親……
自然と顔が綻んだ。
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