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距離
「あ……」
謙誠が作ったというティラミスを半分、何とか口に放り込んだところで俺の携帯の着信音が鳴った。
思った通り、確認すると竜太からのメッセージが入っていた。
今日あった他愛ないこと。午後から喫茶店のバイトに行って、今帰ってきたらしい。
周さんは何してましたか?
ちょっと早いけどおやすみなさい。
……だって。
竜太にはお袋の再婚話、言ってないんだったよな。
俺の様子を見て心配してくれてたっけ。
帰ったらちゃんと話してやろう。
「……なんだよ」
俺のことをジッと見つめる謙誠に気がついて、ちょっと睨んだ。
「いや、周君もそんな顔するんだなぁって思って。凄い優しい笑顔。彼女からのメールか何かかな?」
揶揄うような顔でそう聞くから、俺は軽く首を振った。
……彼女、じゃねえもんな。
「でも……大切な人だよ」
「ふぅん、じゃぁ今度機会があったら是非僕にも紹介してね」
「うん……そのうちにな」
それから俺は風呂を借り、リビングで寛ぐ。
謙誠は少し仕事があるから先に寝るようにと言って、俺を寝室へ案内した。
「ベッド使ってくれて構わないからね。おやすみなさい」
ちょっと寝るには早えな……なんて思ったけど、どうやら相当疲れていたらしく竜太にメールの返信を打ち終える前に俺は眠ってしまった。
「……??」
眠ってしまってからどれくらい時間が過ぎたんだろう?
ごそごそと気配がしたかと思ったら突然俺の横に誰かが入り込んできて、驚いて飛び起きてしまった。
「あ、ごめんな。起こしちゃった?」
そこには眠そうな顔をした謙誠が寝転がって俺のことを見上げてる。
「は? びっくりした……なに? 俺ソファで寝る??」
寝ぼけていて一瞬ここがどこかもわからなくてかなり混乱した。
そうだよ……謙誠のマンションだよ。
あれ? 謙誠は俺にベッドで寝ていいって言ったよな?
「いいよ別に……なんで? 周君が女の子だったらマズイけど、男同士なんだから一緒でも別にいいだろ?」
いや、それなら別にいいけどよ……
でも、仮にも今日「初めまして」の奴といきなり一緒に寝るのって神経使わねえのかな?
少なくとも俺はちょっと居心地が悪い。
「ほら、もう僕たち親子になるわけだし」
「………… 」
謙誠は嬉しそうな顔で笑ってる。
「いや、それはそうなんだけどよ……まだそんないきなり親父だ家族だ言われても俺には実感ねえし。初めて会った奴と親子になったからってそんなすぐに距離が縮まるわけじゃねえよな?」
嬉しそうにしている謙誠には悪いけど、俺の言ってること間違ってねえよな?
でも途端に悲しそうな顔をする謙誠に、俺は慌てて言葉を足した。
「あ! ほら、違うから……別に認めてないわけじゃねえよ? 再婚も賛成だし、家族になるのも俺の親父だって事も認めてるよ。ただ、俺はすぐには馴染めない……ってそう言ってるんだ。気を悪くしたのならごめんなさい」
そう言いながら俺も布団に入りなおし、なんとなく謙誠に背中を向けて目を瞑った。
……そういえば。
「あとさ……さっき再婚したら家族でこの土地に住むって言ってたじゃん? それって…… 」
「うん、勿論 雅ちゃんとこっちに来てもらって、このマンションで暮らすんだよ。広さも申し分ないだろ? この奥にもうひと部屋あるから周君が使ってね」
俺の背後から謙誠の弾んだ声がそう言った。
「………… 」
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