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お袋と…
「あのさ、それなんだけどよ……ちょっと考えさせてもらえないかな。お袋は勿論こっちに来るだろうけど。俺……俺はちょっと考えさせて」
……少しの沈黙。
「うん、わかった……じゃ、周君……おやすみ」
「……おやすみなさい」
背中を向けてたから、謙誠がどんな表情をしたかはわからない。
俺はまだ成人もしてないから謙誠は親子で一緒に住むのが当たり前だと思ってる。
そうなんだけどさ……それはわかってるんだけどさ。
もう来年の春には高校も卒業だし、卒業したら靖史さんと修斗とバンド活動ももっと精力的にやりたいし……圭さんだってどのタイミングで戻ってくるかもわからないんだ。
いつ戻ってきてもいいように、俺はあの場所に留まりたい。
それに……
それになにより、俺は竜太と離れるのなんて考えられない。
大人から見たら、こんな理由は子どもっぽいのだろうか。勝手な事だと思われるだろうか。
でも幼い頃は別として、今までだってお袋と二人で住んでたけど、お互いすれ違いで殆どひとり人暮らしみたいなもんだった。
今更生活スタイル変えるのなんて困る。
色々と考えてしまって、俺は結局なかなか寝付けずに朝を迎えた。
結構早い時間に謙誠が起き出し、俺を起こさないよう気を遣いながら、ゆっくりとベッドから出ていくのをそっと見つめる。
今日家に帰ったらお袋とちゃんと話そう……
そう心に決めて、また目を瞑る。そして俺は少しだけ眠った。
その後は謙誠の用意した朝食を食べ、また謙誠の車でアパートへ送ってもらう。
アパートの前で俺を降ろすと、謙誠はそのまますぐに帰って行った。
お袋は今日は仕事かな?
せっかく来たのに会っていかないんだな。
謙誠の車を見送ってから、俺は部屋に入る。
部屋に入ると、誰もいないと思っていたのにお袋が俺のことを待っていた。
「あ……ただいま」
「おかえりなさい……あの、どうだった?」
なんだよ、お袋までなんて顔してんだよ。目の前にいるお袋はいつもと違って緊張気味な真面目な顔をしていた。
「……別にいいんじゃね? そもそも俺は再婚の事、反対してねえし。謙誠さんならお袋の事幸せにしてくれるよ。よかったな……」
俺がそう言うと、お袋は照れ臭そうに笑った。
俺に親父ができることよりも、お袋の事を愛してくれる人がいる事の方が、なんだか俺は嬉しくて安心する。
だからやっぱり、俺まで謙誠についていくは事ねえなって思った。
「……あのさ、謙誠さんに三人で一緒に住むって言われたんだけど、それ俺も一緒じゃないとダメなのかな? なんか当たり前のように一緒に住むって言ってたからよ……」
「周はどうしたいの?……やっぱり竜ちゃんと離れるのはイヤ?」
……それだけじゃないけど、やっぱりそれが一番でもある。
「俺は竜太と離れて暮らすのも考えられねえし、圭さんがいつ戻ってきてもいいようにここでバンド続けたい……学校も春には卒業するしさ……」
お袋は真面目な顔をして俺を見つめる。
「俺さ、自分に親父ができる事よりも、お袋を愛してくれて幸せにしてやろうって思ってくれる人がいる事が凄く嬉しいんだ。もう俺が守る必要ねえだろ? 俺がいなくても大丈夫だし、安心して謙誠さんのところに行けよ」
恥ずかしかったけど、本音をお袋に伝える。
お袋は一瞬キョトンとしたけど、ぷっと吹き出して笑った。
「なに生意気! 周ったら……うん……でもそうよね。周は小さな頃からあたしの事守ってきてくれたのよね。ありがとう」
そう言ったお袋は今度は笑いながら泣き始めてしまった。
「お袋忙しいな……汚ねぇ顔になってんぞ」
「うるさい!……でも、ちゃんと謙ちゃ……謙誠さんに話しなさいよね。謙ちゃ……あ、謙誠さんはあんたと一緒に住むつもりでいるんだから」
「………… 」
……もういいよ、謙ちゃんって呼べよ。
これからのことを今度はお袋も一緒に三人で会って話をしよう… …って事になった。
それに今すぐに引っ越しするわけじゃないから心配すんなってさ。
とりあえず、ここのところずっとモヤモヤしていたことが俺の中で解消された。早く竜太に会いてえな。
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